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サブカルチャーの拠点「FEINKOST」

ライプツィヒ市の南地域は、住宅地と商業地がバランス良く発展している人気のあるエリアです。そのほぼ中心地に、開発から距離を置いた面白い場所があります。「FEINKOST(ファインコスト)」は、1853年から1921年までビールの醸造所として使われた後、食品販売の企業が入居していましたが、東西の壁崩壊後に撤退して90年代は空き家の状態が続きました。すると、れんが造りの魅力的な建物がポッカリと空いたままというわけで、若い人たちが不法占拠して頻繁にパーティーを行い、サブカルチャーの有名な拠点となりました。その後、自由勝手に空間を使うのではなく、所有者である市と使用契約を結んでお店を開く人たちも出始めました。ところが2000年初め、建物が倒壊する危険があるとして、市が取り壊しの計画を立てました。これに対して大きな波紋が広がり、瞬く間に1万3000人の署名が集まる反対運動が起こりました。さすがに市も計画を断念せざるを得なくなり、そこから当時の入居者と地域の活動家たちを加えた団体と市との交渉が始まりました。

定期的に中庭で開催されるフリマ
定期的に中庭で開催されるフリマ

2005年には「ファインコスト共同組合」が設立され、長い交渉を経て2009年に組合がコの字型の建物を含む約5000㎡の敷地を15万ユーロで買い取りました。彼らは銀行から融資を受けることを一切せず、その姿勢は現在でも変わっていません。共同組合とは自治的な組織で、組合員が共同所有し民主的に管理する事業体を持ちます。組合費と家賃、さらにフリマなどのイベント費を収入源とし、代表者3名が事務管理業務を行っています。現在入居しているのは、アーティスト、デザイナー、ラジオ局、建築設計事務所、法律事務所、家具工房、ビアガーデン、靴屋、ハーブ店、服飾店、本屋、印刷所などです。組合に新たに入会を希望する人は、活動主旨や経済状況、組合と地域への貢献内容などが審査されます。

メインエントランス
エントランスから中庭へつながる通路。

ユニークな入居者が集まる一方で、倒壊する危険のある築150年以上の建物には、常に補修や更新の手間と費用がかかります。歴史保存建造物に指定されているため、増改築が困難なだけでなく窓を一つ変えるにも行政の許可が必要となり、コストもかさみます。銀行から多額の借金をして改修工事を行い、高い賃料で利益を得ることを理念としない彼らは、自分たちのペースで「こうありたい」という空間を維持しながら活動しています。周辺に新しいカフェやレストランが増えていく地域にあって、ファインコストの空間だけ時間が止まったように佇み、サブカルチャーの拠点として市民に愛されて続けています。

ミンクス 典子
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de
 
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