ライプツィヒ西部のリンデナウに、0〜3歳までの子どもを連れて仕事が出来る「親子オフィス "ロックツィプフェル-Rockzipfel"」があります。2010年に始まったこのプロジェクトの基本主旨は、子どもを預けるだけの幼稚園や保育園などと異なる「子どものそばで仕事が出来る環境をつくる」ことです。近代化する前の、例えば小さな村での生活は、親だけでなく祖父母や親戚そして隣人たちも一緒になって子育てをしてきました。田植えや畑仕事など、親に抱っこ紐で背負われた乳児たちは、大人たちがどのように仕事をして生活を営んでいるのかを見て感じながら成長してきました。けれど技術の発展と共に現代の仕事はPCを使うことが多くなり、そうするとモニターの前でずっと作業している親が何をしているのか、小さな子どもたちには見えません。この「親子オフィス」はまた、自宅にこもって赤ちゃんと二人きりでいる親が息詰ってしまわないように、社会と繋がるコミュニケーションの場所とも言えます。
代表者のヨハンナ・グルンダーマンさんは、親子オフィスについてこう言います。「お金を払えばサービスも物も手に入る便利な時代。資本主義が必ずしも悪いわけではないけれど、お金を介さない人間関係がそもそも基本だったはず。私たちの活動だけで世の中を大きく変えられるとは思わないけれど、このような市民活動がいくつも集まればお金の価値だけに依存する社会から世の中が変わっていくかも知れない」
代表者のヨハンナ・グルンダーマンさん
この「親子オフィス」は、長期間空き家だった建物を少しずつ自分たちで改修工事をしながらプロジェクト・ハウスとして使っています。グルンダーマンさんが家族と住んでいるほか、ボランティアが労働を提供する代わりにホストが宿泊場所と食事を提供する世界的なオンラインのネットワーク「ワークアウェイ (Workaway)」の受け入れ先として、様々な人たちが住み込んでプロジェクトに関わっています。そうすることで、人件費を抑え使用料も低額に設定しています。現在も改修工事が完成しているわけではなく、あちこちに作業を進めているところがあります。むしろ空間をつくるプロセスも、多くの人々が知識と経験を共有しながら進めているので、完成させることが目標ではなさそうです。「子育て」から繋がる社会との関わり方に、これからの都市生活の鍵があるように思います。
ロックツィプフェル:www.rockzipfel-leipzig.deワークアウェイ:www.workaway.info/18399749724d-de.html
部屋のあちこちに子どもたちの遊び場が作ってある
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de