今年は、早くから暖かくなり始めたミュンヘン。少し近郊に足を延ばせば、軽装で山歩きを楽しめるほどの気候になりました。街中もすっかり彩りを変え、晴れた日に青葉を茂らせた並木道を散歩するのが気持ち良い季節です。
ミュンヘンの目抜き通りであるマキシミリアン通りをマキシミリアネウム(Maximilianeum)に向かって東へ進んで行くと、右側にミュンヘン州立民族学博物館(Staatliches Museum für Völkerkunde München)があります。ここはアジアやアフリカ、南北アメリカ、中近東、オセアニアの民族文化や美術工芸などを紹介している美術館です。あまり目を引く外観ではありませんが、多くのイベントが催されるなど、活気ある文化的スポットとなっています。
同博物館では、様々な民族文化に触れられる展覧会だけでなく、夜間や週末には世界各地の文化を紹介する映画鑑賞会やコンサート、舞踊パフォーマンス、絵画のワークショップなども行なわれています。昨年夏にはここで日本の「子ども神楽」が紹介され、今年に入ってからは日独交流150周年を記念して、日本に関する数々の展示が行なわれています。
あまり目立たない外観でも、展示やイベントは
多種多彩で個性的です
©Nikolai Kästner
5月8日までは、「日本の蒔絵工芸展」が開かれていました。ここで展示されていた蒔絵の調度品は、17~18世紀にかけて収集されたヴィッテルスバッハ家(バイエルン選帝侯)所蔵のものです。蒔絵は漆器の表面に金、銀の金属粉や薄板を「蒔く」ことで装飾を施す技法ですが、ここでは金属だけではなく、夜光貝や蝶貝を貼ったり埋め込んだりする「螺鈿(らでん)」の技法を用いた調度品も多く展示されていました。特に螺鈿をあしらった家具や食器などは、欧日間の貿易が活発になるにつれ、高級南蛮漆器としてヨーロッパの生活スタイルに溶け込むようなデザインがなされるようになったそうです。黒塗りに、光り輝く装飾を施した豪華な調度品の数々。この美しさが、ヴィッテルスバッハ家でもステイタス・シンボルとして愛されたのでしょうか。
蒔絵の箪笥。
こちらの人々の目には、どのように映るのでしょう
また、時期を同じくして江戸時代以降の日本の版画も紹介されていました。カリカチュアの元祖である葛飾北斎は、江戸の庶民文化を面白おかしく映し出し、「ゴッホ」に憧れた20世紀を代表する版画家、棟方志功の作品は彩りも鮮やかです。彼の描いた菩薩の柔和な表情を見ていたら、とてもノスタルジックな気持ちになりました。時代が変わっても、日本人が好むモチーフや色彩感覚はあまり変わっていないのかもしれません。そのような人々の気持ちが、自然と日本文化を保っていくのでしょう。
Staatliches Museum für Völkerkunde München
www.voelkerkundemuseum-muenchen.de
2004年よりミュンヘン在住。主婦の傍ら、副業でWEBデザイナー。法律家の夫と2人暮らし。クラブ通い、ゴルフが趣味のおばさん。