黒い森(Schwarzwald)は、フランスとスイスの国境に近いバーデン=ヴュルテンベルク州に広がる森です。私はその片隅に暮らしていて、家事や仕事の合間に森の香りを吸い込み、木々を眺め散歩するのが日課となっています。また、季節の山菜、クリやキノコといった自然の恵みをいただけるのも楽しみの一つです。そんな身近な黒い森についてもっと知りたくなり、国立公園センター(Nationalparkzentrum)を訪れました。
国立公園センターとスキー場。夏もスキーリフトが運行しています
黒い森の国立公園の理念は「自然を自然にさせる」こと。人が手を加えず、倒木も立ち枯れの木もそのままに、自然の推移に委ねる区域を段階的に増やしていく計画で、2044年までに公園全体の75%を「手つかずの森」にすることを目指しているそうです。館内も木がふんだんに使われた気持ちの良い空間が広がり、常設展示では森・動物・目に見えない菌の世界へと導かれ、まるで自然が静かに語りかけてくるような体験ができました。
センターでは木彫りのオオカミがお出迎え
興味深かったのは「黒い森」という名前についてです。起源は西暦77年ごろ、ローマ人が畏れをこめて呼んだ「黒い森」にさかのぼります。当時の森は多様な混交林でしたが、光の届かない深さが「黒」と映ったようです。今のような密なドイツトウヒの森になったのは18〜19世紀、伐採で荒れ果てた森を人の手で植林して回復させた結果でした。現在多く見られるトウヒが、実は人の手による植林で広がったものだと知り、驚きました。
持続可能性を意味するドイツ語「Nachhaltigkeit」も、実は森と深く関わっています。語を分けると、nachは「後に」、haltenは「保つ」という意味です。1713年、ザクセンの鉱山官僚カルロヴィッツが「森は再生する範囲でしか切ってはならない」と説きました。木材は建築・燃料・鉱山の坑道支柱などに不可欠な資源で、過剰伐採への危機感から生まれた実務的な思想でしたが、将来世代の利益までも見据えた300年前の危機感が、今日の「サステナビリティ」へとつながっています。黒い森も19世紀初頭には、森林面積が本来の1割にまで減る危機を経験しました。その後、放牧の禁止や伐採制限、大規模な植林などを経て、現在の姿に至っています。
夏のスキー場で食べたマウルタッシェン
かつては夏の保養地やウィンタースポーツでにぎわっていた黒い森も、最近は海外旅行の身近さや雪不足で旅行者は減少。一方で2022年には「持続可能な旅行先」認証を取得し、環境配慮型のエコツーリズムも進んでいます。ちなみに日本の森林浴(Waldbaden)も観光PRとして取り入れられています。何を次世代に手渡していくのか。今日も森の散歩をしながらあらためて思うのでした。
南ドイツの黒い森の片隅で、自然と調和した暮らしを実践中。味噌や麹を通じた伝統食の紹介やオーガニックの魅力の発信、親子で楽しめる味噌作りワークショップを開催。ローカルな暮らしの日々をインスタグラムでつづっています。
@schwartzwaldtagebuch



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