新型コロナウイルス感染拡大防止のためのロックダウンで、楽しみにしていた年末の旅行ができなくなりがっかりでした。最近は感染するのが怖く、気分も沈みがちでよく眠れない日も。メンタルへの影響が心配です。
Point
- 寂しさ、孤立感、感染への不安
- 気分転換の機会がなくなる
- 疲労感、不眠、食欲低下も
- 溢れ返る情報に踊らされないように
- 子どもも敏感になっている
- 1人で悩まないで相談を
ロックダウンがもたらす心への影響
● 感染への不安
「感染したら?」という不安は誰しもあるものです。子どもの場合は、感染したら死んでしまうのではと恐怖感を抱くことも。大人の場合は、感染したら周囲にどう言われるだろうと日本人社会を意識した心配もあります。
● 孤独感、孤立感
特に単身者や高齢者の孤独感(Einsamkeit)が問題となっています。ドイツ全体では48%の人が孤独感を、若い世代(現在10〜25歳くらい)では62%が寂しさを感じています(Kaspersky Studieの調査結果、ドイツ連邦議会での質問書 19/21414より)。
● 収入が途絶える不安
長引く休業のしわ寄せは、特にパート社員(とりわけ女性)に現れています。家計を支えている仕事がなくなるのでは、という不安がストレスになります(2020年5月2日のBild誌、10月のApotheken Umschau誌)。
● 気分転換の機会の消失
旅行、コンサート、買物、レストランもなく気分転換の機会が減ります。そのため、「週末は友達と……」といった楽しみも限られ、ストレス発散の場が失われています。
● ヘルプラインへの電話
2020年春に実施されたロックダウンでは、ヘルプライン(TelefonSeelsorge®)への1日当たりの電話相談が20%増加。特に規制が厳しかったバイエルン州を含む3州では3割近く増えました。相談案件は孤独感、自殺の悩み、身体の不調、家庭内暴力でした(フライブルグ大学のDiscussion Paper Series 2020-04より)。
ロックダウンでの意識調査(対象は18〜69歳)
(Deutschland Barometer Depression 2020の調査結果から作図)
ロックダウンによる家族への影響
● 小さな子ども
周囲は新型コロナウイルスの話ばかりで、小さな子どもにとっても影響は大きいです。子どもは親の不安などを敏感に感じ取る傾向にあります。自由に遊べない退屈さ、欲求不満も蓄積しやすくなっています。
● 職場、テレワーク
外では対人間隔、勤務先でもマスクを着用するなど、同僚とも距離感が生じます。テレワーク(ホームオフィス、Telearbeit)では家庭に仕事が持ち込まれるため、仕事の時間と家族の時間をうまく使い分けないと、家族に大きな負担が掛かることもあります。
● 女性への負担
女性のテレワークでは、仕事、家事、育児が重なり、男性に比べて負担が大きくなることが危惧されています(2020年のEurop Societies誌、前述のBild紙)。パート社員の女性が多い飲食関係や旅行会社では、失職の不安が付きまといます(同Bild紙)。
● 夫婦関係
テレワークで家族の絆が深まる家庭もあれば、家族に対してイライラ感を爆発させて問題となる場合も。旅行も叶わず、外出も限られて、ただ家でじっと過ごしていると、「自分はどうして今ドイツに居るのだろう」と悩み始める主婦(夫)もいます。
影響する因子
● 冬季うつ(季節性感情障害)
2020年11月から始まったロックダウンは「冬季うつ」(Winterdepression、saisonal-affektive Störung)の季節と重なっています(本誌741号)。両方の影響が重なり、心に作用することがあります(2020年11月の雑誌VOGUEの記事)。
● 心の病への影響
治療中の心の病にも影響する可能性があります。うつ病(Depression)ではロックダウンをより負担に感じ、不安感が強まる可能性が報告されています(2020年のStiftung Deutsche Depressionshilfeの調査、2020年のJAMA誌とInt J Sociel Psychiatry誌)。もし今までと違うと感じることがあれば、主治医に相談してみてください。
● 単身生活
ドイツで一人暮らしをしている人は、寂しさや孤独感をより強く感じる傾向があります。電話やオンライン会議形式でほかの人とのコミュニーケーションを絶やさないようにしましょう。
気になる兆候● 不眠(Schlafstörung)
心配や不安感に加え、運動不足、規則的な日常生活を保ちにくいことも不眠の原因になります。うつ症状の一つとして、睡眠の質の低下がみられる場合も。
● 体の不調
倦怠感、食欲の低下、胃腸障害、胸の不快感など、人によってさまざまな身体症状として現れることがあります。
● 気分の落込み
どんよりとした空、外はうら寂しい景色、人と話すのが億劫、やるべきことがなかなか前に進まない、楽しくない、早く日本に帰りたい、というような気持ちが強くなります。
ロックダウン中の心の健康対策
● 溢れる情報に振り回されない
多くの情報が氾濫(Infodemie)しています。新型コロナウイルスの何が分かって何が解明されていないか、冷静に正しく理解(Faktencheck)することが大切です。
● ロックダウンの目的を理解
制限の目的を理解し、自分の人生のあり方について考える人の方が心理的ストレスが少なかったと報告されています(2020年のFrontiers in Psychiatry誌)。
● 体を動かす、光を浴びる
身体運動は気分転換に役立ちます。気分が大きく沈んでしまった時は強い光を浴びる光療法(Lichttherapie)も有用です。冬季うつ治療に用いる照明器具も市販されています(Innolux社のSupernova®など)。
● 規則正しい生活
夜ふかしや遅起きが常態化すると、ドイツにいながら「時差ボケ(Jetlag)」状態に。テレワークでは自分の勤務、休憩、運動、食事、自由時間を上手に管理することが大切です。特に単身者では、仕事と自分の時間の切り替えが大切です。
● 趣味、新しいことにチャレンジ
趣味、器具の修理、部屋の模様替え、新しい料理、ドイツ語、さらには夏の旅行計画など、今までできなかったことに時間を割いてみてはいかがでしょうか。
● 困ったら遠慮せずに相談を
心が沈んでしまった時、不安感や孤独感が強い時は、誰かに話を聞いてもらうことも役立ちます。苦しいと思ったら、思い切って相談してみてください。
子どもの対策
● 子どもの異常に気づく
不安を訴える、怖がる、夜眠れない、怖い夢を見たなどの訴えはありますか? そんな時は「今どんな気持ちか」を尋ねてみてください。言葉に出された子どもの気持ちを否定せずに聞いてあげることが大切です(国立成育医療センター・こころの診療部のパンフレットを参考)。
- ・落ち込んでいる
- ・眠れない
- ・食べられなくなった
- ・何も楽しくない
- ・あまり話をしなくなった
- ・友だちとも話をしたがらない
- ・学校に行くことを渋る
- ・オンライン授業に参加したがらない
- ・感染を極端に恐れている
● 正しく理解し、説明する
子どもには間違った思い込みがある場合も。信頼できる情報源からの正しい情報を分かりやすい言葉で説明してあげてください(前述のパンフレットを参考)。
● 親の気持ちを敏感に感じ取る
子どもは親の不安や怒り、夫婦間の会話のトーンの変化を敏感に感じ取っています。子どもの前での会話では、不用意な感情露出が子どもの不安につながる場合もあることを理解してください。