コロナワクチンの接種が始まりました。副反応が多いとのニュースを見て心配しています。それでも受けた方が良いのかどうか悩ましいです。アストラゼネカ社のワクチンは大丈夫でしょうか?
Point
- ワクチンはウイルス感染の予防に有効
- 多くの人が接種して成り立つ集団免疫
- 最も多い副反応は注射部位の痛み
- ワクチンは各地域の接種センターで
- 4月からハウスアルツトでも接種開始
- 変異株のウイルスが増えてきている
なぜワクチン接種が大切?
● ワクチン(Impfstoff)は人類の知恵
人類の歴史は病原菌との闘いの歴史ともいえます(ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』草思社刊)。今日私たちが健康な生活を送れるのも、衛生概念の改善とワクチン接種の普及が大きく関わっています。1796年に天然痘予防のためジェンナーが行った種痘がワクチンの歴史の幕開けです。雌牛(Vacca)が用いられたため、「ワクチン(Vakzin)」と呼ばれるようになりました。● 個人を守るため
ウイルスには抗菌薬(抗生物質)は効かず、今も多くのウイルス感染症では特効薬がありません。ワクチン接種によってウイルスに対する免疫(Immunität)を作り、ウイルス感染とその重症化を減らします。● 社会を守るため
社会の一定割合以上の人がウイルスに対する免疫を持つと、ウイルスは他者へ感染することによる自己増殖ができなくなります。新型コロナウイルスも多くの人が予防接種を受けることで初めて「集団免疫」(Herdenimmunität)が得られるのです。ワクチンの予防効果は?
● ワクチン作用の仕組み
ウイルスの突起部分が私たちの細胞に付着して感染します。ワクチンはその突起部分に対する中和抗体を作り、ウイルスが私たちの細胞内に入り込むのを抑えます。
ワクチンはスパイク部分に対する抗体を作る
(あくまで模式図で実際のウイルスとは異なります)
● ビオンテック社/ファイザー社製ワクチン(BioNTech / Pfeizer)
2回接種後の短期間における感染予防効果は95%(Arznei-Telgram誌)。壊れやすいRNAワクチンのため低温保存が必要です。英国変異株にも有効で、中和抗体の検討にて、南アフリカ変異株(3月8日のNEJM誌)やブラジル変異株(3月8日のロイターニュース)に対しては効果の減弱があるものの、有効であることが示されています。● モデルナ社製ワクチン(Moderna)
2回接種後の短期間での感染予防効果は94%(同上誌)。英国変異株にも有効で、中和抗体の検討にて、南アフリカ変異株に対しては効果の減弱があるものの、有効性が示されています(3月17日のNEJM誌)。● アストラゼネカ社製ワクチン(Astra-Zeneca)
米国で2回接種後の有効性は79%(3月22日のプレスリリース)。ほかのワクチンに比べて低価格という利点があります。英国変異株に有効ですが、南アフリカ変異株に対しては実際の臨床の場で予防効果が10%しかありませんでした(3月16日のNEJM誌)。ブラジル変異株ではワクチン効果の減弱があるものの、有効性が示されています(3月8日のロイターニュース)。● ヤンセン社(ジョンソン&ジョンソン社)製ワクチン
(Janssen Pharmaceutica) 接種後の28日以降、中等症から重症にかけての感染症を予防する有効率は米国で72%、世界全体では66%でした(Arznei-Telegram誌)。1回接種で済むことと、南アフリカ変異株やブラジル変異株(2月4日の米国FDAの資料)にも効果があることが特徴です。効果の持続期間と変異株の影響
● 予防効果の持続期間は?
ワクチン投与が開始されてまだ日が浅く、予防効果の持続期間は分かっていません。インフルエンザワクチンのように半年程度で抗体価が下がり予防効果が薄れてくる可能性も現段階では否定できません。● 変異株(Variante Stamm)とは?
細胞内で膨大な数のウイルスが複製される際に、コピーミスによる変異ウイルスが生まれます。変異ウイルスが集団の大部分を占めると、ウイルス変異株として社会に拡がります(山内一也著『ウイルスの意味論―生命の定義を超えた存在』みすず書房刊)。変異部位によってはワクチンの予防効果が低下したり無効になったりする可能性もあります。● 注意を要する変異株ウイルス
ドイツの新規感染者の約72%は変異株によるもので、その大半が①英国(ケント)変異株(B.1.1.7)です(3月24日のロベルト・コッホ研究所[RKI]の報告書)。英国変異株は従来のウイルスよりも感染しやすく(英国公衆衛生庁)、死亡率は1.6倍と高いことが知られています(3月9日のBMJ誌)。②南アフリカ変異株(B.1.351)と③ブラジル変異株(P.1)は、英国変異株よりもワクチン効果を減弱させる変異が加わっています。副反応について
● 注射部位の痛みと倦怠感
現在ドイツで用いられているワクチン製剤では、①接種部位の痛みが7〜9割と最も多く、②倦怠感、発熱、頭痛、悪寒などが最大で半数近くの人に認めれられます。● アストラゼネカ社製ワクチンと血栓症
ドイツ国内でも60歳未満の女性を中心に同社のワクチンを接種した31名に、脳の静脈血栓(血液が固まって血流を遮断する病態)が報告されました。現在は60歳以上を対象とすることがすすめられています(3月30日のRKIのプレスリリース)。 同ワクチンの2回目接種は、他社製ワクチンに替わる可能性が検討されています。● アレルギー疾患との関係は?
アレルギー疾患(花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)、食物アレルギー、経口医薬品アレルギーの人もワクチン接種を受けられます(前述のPEI)。以前に予防接種でアレルギー反応を起こした人は、ワクチン製剤に含まれる添加物が原因のこともあるため、ほかのアレルギー歴と共に必ず問診票に記載してください。ワクチン接種のQ&A
● 接種を受けるコストは?
ドイツに住民登録しているワクチン対象者は無料で接種を受けられます。● どこでワクチン接種が受けられる?
各州内の地域ごとに設けられたワクチン接種センター(Impfzentrum)で受けます。優先(Priortät)接種対象者から順番に通知が届き、自分で電話116117(高齢者はオンライン申込みも可)して日時の予約を取ります。- □ 名前のスペル
- □ 生年月日
- □ 住所
- □ メールアドレス
- □ 電話番号
● かかりつけ医でも接種できる?
イースター明けの4月6日以降、かかりつけ医(ハウスアルツト、Hausarzt/-ärztin)でもワクチン接種を受けられます。医療機関当たり1週間に20人分程のワクチンが提供され、最初は自分で接種センターへ行けない高齢の往診患者や、優先順位の高い慢性疾患を伴う人たちが接種対象になる予定です。● 妊娠中でもワクチンを受けられる?
妊娠中の人と胎児へのワクチンの影響は十分に明らかにはなっていません。欧州薬局庁(EMA)と英国王立産婦人科医協会(RCOG)は、新型コロナウイルスへの感染リスクが大きい場合にのみ接種を受けるようにすすめています。● 妊娠希望の女性や不妊治療は?
不妊治療がワクチン接種の日に重ならないようにし、できれば2回目の接種終了後、数日間待ってからの不妊治療がすすめられています(ドイツ周産期医学会[DGPM]、欧州ヒト生殖胎生学会[ESHRE])。● 授乳中の女性は?
授乳中の母親のワクチン接種による乳幼児への悪影響について報告はなく、授乳を止める必要はないと考えられています。一方で、接種後のワクチンが母乳中へ排泄されるのか、乳児に影響があるのかについてはまだ明らかとはいえません(前述のRCOGのQ&A、英国の予防接種・免疫合同委員会[JCVI]の資料)。