PCR検査で陽性の結果でしたが、自分で行った抗原検査では陰性でした。PCR検査をやり直してもらった方が良いでしょうか? PCR検査と抗原検査の結果の意味の違いを教えてください。
Point
- PCR検査がゴールドスタンダード
- 専門家が行うシュネルテスト
- 自分で検査するゼルプストテスト
- 抗原検査の陽性ではPCR検査が必要
- 感染初期は抗原検査で陰性の場合も
- 抗体検査はこれまでの感染の有無をみる
ドイツで行っているコロナ検査
● PCR検査と抗原検査
コロナ検査は大きくPCR検査と抗原検査(Antigen Test)に分けられます。抗原検査は開業医(Praxis)や街中の検査施設(Testzentrum)で受けられる「シュネルテスト」(Schnelltest)と、自分で検査する「ゼルプストテスト」(Selbsttest)があります。
● ドイツの感染者数はPCR陽性者数を発表
ロベルト・コッホ研究所(RKI)から発表されている感染者数は、診断精度の観点からPCR検査による陽性者のみとなっています。
PCR | 抗原テスト | |||
---|---|---|---|---|
呼吸器症状がある患者 | ◎ | ○ | ||
症状なし | 日常生活、病院など | 濃厚接触者 | ◎ | ○ |
施設の訪問前に | △ | ◎ | ||
感染予防として | 施設、職場の衛生基準にて | △ | ◎ | |
ブルガーテスト | △ | ◎ | ||
ゼルプストテスト |
△ | ◎ |
PCR検査
● 診断のゴールドスタンダード
「PCR」はPolymerase Chain Reaction(核酸増幅反応)の略で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を確認する最も信頼できる検査法です(ドイツ連邦厚生省、BMG)。
● 対象となる人
臨床的に新型コロナウイルス感染(COVID-19)が疑われる患者、感染者の濃厚接触者、シュネルテストやゼルプストテストの抗原検査で陽性となった人が対象となります。日本への渡航の際の検査証明にも用いられます。
● 検体採取の部位
鼻咽頭ぬぐい液(Nasen-Rachen-Abstrich)、喉咽頭ぬぐい液(Rachenabstrich)が多く用いられ、精度を上げるため喉咽頭と鼻咽頭からの混合検体の採取もすすめられています(2021年3月のDtsch Med Wochenschr誌)。また唾液(Speichel)からの検出精度も高いと報告されています(2020年のNEJM誌)。
● 陽性結果は保健所に届けられる
「陽性」の判定は、検査ラボと医療施設から保健所(Gesundheitsamt)に届けられます。本人には、保健所から2週間の自己隔離期間の説明や濃厚接触者を確認するために連絡が入ります。
● 陽性者の「CT値」とは?
陽性結果の結果報告書の「CT値」(Threshold Cycle)は、PCRを何サイクル行って測定閾値に達したかを示す数値で、値が低いほど検体中のウイルス量が多いことを意味します。感染者の多くはCT値が10~20で、30以上はウイルス量が少なく、35以上は非常に少ないと理解されています。
● 感染者の陽性率は7~9割
陽性率は感染からの日数にも影響されるため、実際の感染者の7~9割が陽性となります(2020年のAnals Int Med誌、2021年のVirol J誌)。強く感染が疑われる患者に繰り返しPCR検査が行われるのはそのためです。
抗原定性(qualitativ)検査
● 何を調べる検査?
新型コロナウイルスに特徴的なタンパク成分(抗原、Antigen)の有無を、特異的な抗体(Antikörper)を用いて調べます。ドイツ国内の抗原検査(Antigentest)のほとんどが陽性(positiv)か陰性(negativ)だけを判定する「定性検査」です。
● 偽陰性(pseudonegativ)と偽陽性(pseudopositiv)がある
感染者でもウイルス量が少ない感染初期(発症初期ではなく)は陰性となるため(RKIのガイドライン)、「陰性」=「感染していない」とは言い切れません。逆に感染していないのに陽性となる偽陽性もあるため、陽性者はPCR検査による確認が必要です(RKIのガイドライン)。
● 感度(Sensitivität)と特異度(Spezifität)の問題
検査の感度が高いと特異度が下がり(偽陽性が増える)、特異度が高いと感度(偽陰性が増える)が下がる傾向があります。ドイツで認可された抗原検査キット(4月14日時点で455製品)の感度と特異度は連邦医薬品医療機器研究所(BfArM)のサイトで公開されています。
抗原シュネルテスト(Antigen-Schnelltest)
● 検査施設などで結果はすぐ!
開業医、薬局(Apotheke)、街中の検査施設で医療従事者など熟練者が鼻咽頭や喉咽頭より検体を採取し、その場で検査します。結果は20~30分で得られます。
● 週1回は無料で検査
介護施設、病院、開業医、学校では定期的な検査が義務付けられています。今年の3月8日以降は全ての人が開業医、薬局、検査施設で週1回のシュネルテスト(ブルガーテスト、Bürgertest)を無料で受けられ、結果証明を受け取ることができます(BMG)。陽性の場合は、確定診断のためPCR検査を受けることになります。
抗原ゼルプストテスト(Antigen-Selbsttest)
● 検査の目的
日常生活の安心のために自分で検査する抗原定性検査です。知人宅、理髪店、美術館への訪問時、さらに州によっては学校や保育所での検査に用いられています。
● 自分で簡単にできる検査
使用法はシュネルテストとほぼ同じです。唾液を用いた検査(Corona-Schpuk Test、Speicheltest)など、より簡便なものが市販されています。
● 陽性の場合
開業医または「116 117」に連絡して、確定診断のためPCR検査を受け、結果が判明するまで自宅待機することになります(BMG)。
抗原定量(quantitativ)検査
● CLEIA法(富士レビオ社)
定量測定が可能な抗原検査法です(Lumipulse G SARS-CoV-2 Ag Test ®)。測定は同社製の専用測定機器(LUMIPULSE G600II ®、LUMIPULSE G1200 ®)を備えた検査ラボでのみ行えます。ドイツではフランクフルト空港とハンブルグ空港の新型コロナウイルス検査施設(CENTOGENE ®)で行われています。
● 検査結果
定量検査結果と検体中のウイルス量との相関は高いと報告されているものの(2020年のInt J Infect Dis誌)、陽性の場合はPCR検査による確定診断が必要です。
抗体検査
● 感染の早期診断には無力
SARS-CoV-2ウイルス感染後に最初に産生されるIgMとIgA抗体は早くて感染数日後、IgG抗体は1~2週間後から出現するため、早期診断の指標にはなりません。
● 抗体の臨床的意義
これまで新型コロナウイルスに感染したかどうか、また感染者の場合は体内に新型コロナウイルスに対する免疫が持続しているかを推測できます。無症状の感染者では抗体が産生されない可能性や(2020年のリューベック保健所報告)、抗体ができても数カ月で消失するという報告(2020年のNEJM誌)もあります。
コロナ検査が免除されるのは?
● ワクチン接種の完了
2回のワクチンの接種(ジョンソン&ジョンソンは1回)が完了してから、14日以上が過ぎた場合(免疫ができたと推定される)。
● 感染して28日が経過
PCR検査の結果で陽性となってから28日以上が経過し、6カ月未満の場合(感染後の半年間は免疫があると推定される)。
● 感染者が後にワクチン接種
PCR検査の結果で陽性となってから6カ月以上が経過し、1回のワクチン接種を受けた場合(感染によりできた免疫がワクチンで維持されたと推定される)。