ジャパンダイジェスト

マダニと初夏脳炎

夏休みにドイツ南部に旅行に出かける予定ですが、ダニによる脳炎に注意が必要だと聞きました。詳しく教えてください。

ダニ脳炎って何?

ダニ
ツェッケ(マダニ)
中欧・東欧・北欧の一部の森林地帯に生息するマダニ(Zecke、写真右)に咬まれることによって感染するウィルス感染症です。媒介する動物は違いますが、日本脳炎と同じ範ちゅうに入るフラビウィルスによるウィルス性脳炎です。初夏に見られることが多いので「初夏脳炎」「初夏脳髄膜炎」(Frühsommer- Menigoenzephalitis)、新聞などではよく略して「FSME」と呼ばれています。また、マダニは細菌の感染も媒介し、ボレリア症(後述)を引き起こすこともあります。

感染する恐れのある地域は?

媒介するマダニの生息地域に一致するため、南ドイツ(バイエルン州、バーデン=ヴュルテンベルク州)からスイス、オーストリア、ポーランド(北東部と南部)、チェコなどにかけて発症が見られます(図1)。最近ではヘッセン州南部で発症が確認され、日本でも北海道でダニ脳炎ウィルスによる脳炎の発症が報告されています。

ダニ脳炎に感染する可能性のある地域

発症する季節は?

3~10月の間に発症が見られ、初夏脳炎と呼ばれるものの秋でも油断は禁物です。ドイツでは毎年200~500人、オーストリアでも100人ほどが発症しています。

森林のマダニに注意

初夏脳炎のウィルスは森に住む動物の体内で増殖し、その動物を吸血したマダニによって他の動物へと媒介されます。従って、感染の危険はマダニが生息している森林地域です。夏になると、多くの人がハイキングなどで森の中に入るため、感染の機会が増えるのです。

マダニに咬まれたら

マダニは別名「吸血ダニ」とも言われ、草むらに潜んで獲物が来るのを待ち構えています。飛ばないので足を咬まれることがほとんどですが、皮膚に8本足をがっしりと食い込ませるため、専用のピンセットでひねりながら引き抜く必要があります。うまく取れない場合は、医師に処置してもらうようにして下さい。

ダニ取り器具

咬まれると必ず発症しますか?

脳炎ウィルスを持ったマダニの比率は0.1~3%といわれています。このウィルスはマダニの唾液中に存在しますが、仮にウィルスを持ったマダニに咬まれても感染率は約30%ほどで、感染したとしても必ず症状が出るとは限りません。しかし運悪く感染・発症すると、命に関わる重篤な症状や神経障害を引き起こしますので油断は禁物です。

どのような症状が出る?

約3~14日間の潜伏期間の後に、突然の発熱や頭痛などの風邪症状で発症します。この時期に嘔気や光過敏などを呈する場合もあります。多くの人はこれらの症状が2~4日間続いた後、1週間程度で回復に向かいます。しかし10人に一人は、その後1週間程の間隔をあけて2回目の発熱が起こり、脳炎に伴う神経系の諸症状が現れます。また患者の10~20%に、頸部から上腕にかけて麻痺などの後遺症が残ることがあり、重篤な場合は死に至ることもあります(1~2%)。

ワクチン接種による予防

予防に最も効果的なのはワクチン接種です。ダニ脳炎ウィルスを不活性化したFSMEワクチンが、通常3回に分けて接種されます。初回接種の1~3カ月後に2回目の接種を行い、さらに9~12カ月後に3回目の接種を行います。接種を2回する場合の効果は1年だけですが、3回目を行うと3年になります。また、ダニ脳炎はウィルス疾患ですので抗生物質は効きません。

副作用はある?

稀に、注射部位の発赤・腫脹・痛みなどの炎症反応、さらに発熱が報告されています。以前、FSMEワクチンに対してアレルギー反応を示した人、卵アレルギーのある人は接種を控えてください。

ボレリア感染症とは

マダニが媒介するもう一つの感染症にボレリア症(Borreliose、別名ライム病)があります。最近はブンデスリーガ1部バイエルン・ミュンヘン所属のシュバインシュタイガー選手が感染したことでも有名です。ボレリア症は細菌感染で、100匹に1匹のマダニが細菌を媒介し、咬まれた場合の感染率は50%と高いことが知られています。感染数はドイツで50万人近くもおり、新規感染も年間4~6万人ともいわれています。細菌感染のため、抗生物質での治療が可能です。ちなみに、ボレリア症の予防に初夏脳炎のワクチンは役立ちません。

症状は?

マダニに咬まれてから数週間で咬まれた箇所が赤く腫れ(紅班)、次第にそれが大きく広がり、発熱・頭痛・筋肉痛・倦怠感などが現れます。その後、数週間~数カ月後に痛みを伴う神経炎、中枢神経症状、筋肉の炎症などが起こります。重篤な全身の症状が続くと死に至る場合もある病気です。

ダニに咬まれないために

該当する地域の森林や草原に入る場合には、ダニに咬まれないよう工夫が必要です。キャンプやハイキングの際には、長袖・長ズボン、靴下を履くようにし、木の根もとの草むらなどには特に注意しましょう。ダニ除けローション、スプレー、超音波によるダニ撃退器なども市販されています。一方、ボレリア症の場合、もし咬まれても24時間以内に皮膚からマダニを取り除けば感染を軽減できるといわれています。これはボレリア菌がダニの消化管内に存在するため、感染までに時間的ゆとりがあるからです。従って、油を塗るなどの民間療法は逆にマダニを苦しめ、それにより消化管の内容物が吐き出されて感染の機会を高めかねませんので注意が必要です。

最後に

いよいよ夏休み到来。サッカーの欧州選手権で盛り上がったスイス、オーストリアやドイツ南部地方を訪れる方、ハイキングなどを計画されているご家族もいらっしゃるでしょう。マダニは、ダニ脳炎やボレリア症以外の感染症を媒介することもあります。もしマダニに咬まれて何らかの症状が出た場合には、医師の診断を仰ぐようにしましょう。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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