ドイツでは、今年4月にカナビス(大麻、マリファナ)の所持および消費が制限を設けた上で合法化されたと知りました。医学的観点から、大麻は安全といえるのでしょうか?どうして法規制が緩和されたのか教えてください。
Point
- 大麻にはカンナビノイドが含まれる
- THC成分が精神症状を生じる
- 脳の発達は25歳くらいまで続く
- 若年者の乱用が問題
- 内因性カンナビノイド系への悪影響
- 医療大麻(大麻医薬品)の可能性
カナビス(大麻、マリファナ)について
カナビスとは?
カナビス(大麻、 Cannabis)は、大麻草(アサ)の花や葉を乾燥、樹脂化、液体化させた物で、マリファナ(Mrijuana)とも呼ばれます。大麻草(アサ)の茎からは丈夫な繊維(おおあさ、大麻麻、ヘンプ)が取れますが、現在日本で流通しているのは亜麻(リネン)です。
主な成分
大麻草には、カンナビノイドと呼ばれる化合物群が含まれています。主な成分はテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、マリファナ吸引による幻覚などの精神作用は、THCによるものです(令和4年の厚労省「大麻取締法の改正に向けた検討状況」より)。
人への急性作用
急性作用としては多幸感(ハイの状態)、知覚の変化(時間、空間、色のゆがみ)、夢幻状態(脳の活動低下により観念にまとまりがなく自由に流れるような感じ)、集中力の低下、瞬時の反応の遅れを生じます。大麻の影響下での運転は犯罪になり、最高3500ユーロの罰金と運転禁止となる可能性があります。
常用による影響
長期的な大麻使用にて呼吸器症状、吐き気と嘔吐を伴うカンナビノイド悪阻、薬物依存、さらに離脱症候群(急にやめた時に起こる不眠、イライラ感、抑うつ気分、吐き気、食欲低下)がみられます。
WHO勧告による国際条約のカテゴリー
WHOにおける麻薬に関する単一条約での大麻の規制カテゴリーは、「Ⅰ. 乱用のおそれがあり悪影響を及ぼす物質(コカイン、あへん、モルヒネなど)」と「Ⅳ. 特に危険で医療上の有用性がない物質(ヘロインなど)」でした。しかし、2020年に大麻の医療上の有用性の可能性(後述)から「I」のみに変更されました。
若年者への影響
脳の発達過程は25歳になっても完成しておらず、大麻の使用はこれらの過程に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。しかし、日本では大麻のために検挙された人の約70%が30歳未満で(2020年、警察庁)、ドイツでも特に18~25歳の若者の間で大麻使用が増加しています(ドイツの厚生省、BMG)。
体内で作られるカンナビノイド
私たちの体の中では大麻成分に似た物質が作られています。この内因性カンナビノイドは食欲、睡眠、ストレス反応など多くの生体機能、神経伝達の調節に関わっています。大麻の吸引は、この内因性カンナビノイド系のバランスを乱すため、身体や精神症状を生じると考えられています。
医療にて用いられる大麻
医療大麻・大麻医薬品(medizinisches Cannabis)
大麻は、昔から生薬(薬草)としてさまざまな病気の治療に用いられてきました。その経緯から、国によってほかの治療法が利用できない重篤な病気(持続的な痛み、多発性硬化症の筋肉けいれん、化学療法に伴う吐き気、エイズなどによる望まない体重減少、てんかん、うつ状態など)に対して、医療大麻が処方されることがあります。
公的保険でカバーされる?
ドイツでは2017年以降、特定の場合に限り、一定の厳しい条件下において大麻医薬品(標準化された品質の乾燥花あるいは抽出物の薬用大麻を含む医薬品)の費用が公的保険でカバーされています。初めての処方の場合、公的保険による申請処理期間は約3週間で、専門家の意見が必要な場合は約5週間を要します(KBV、疾病金庫連合会)。
ドイツの法規制緩和
制限緩和の理由
ドイツ連邦政府による大麻使用に関する薬物政策が限界にきており、2024年4月から所持および消費が制限を設けた上で合法化されました。売買や所持が禁止されているにもかかわらず、実際には闇市場から品質の不確かなものを手に入れたり、それらが多くの場所で消費されたりしていることから、組織的な薬物関連犯罪の抑制と汚染された大麻物質の流通を防止するためとされています(ドイツの厚生省[BMG]のQ&Aより)。
社会的な懸念は大きい
今回の法改正により、大麻消費を増加させる誘引になるのではないかと不安視されています。デュッセルドルフの小児科医会長を務めるNaujoks氏も4月16日のインタビュー記事(ライニッシェ・ポスト紙)の中で、今回の法改正が及ぼす青少年への危険性を指摘しています。ドイツの医師会(Arztekammer)も、脳の器質的変化を引き起こし、若者の行動問題を引き起こし、依存症や心理的変化の引き金になることが分かっている物質の合法化に強く異議を唱えています。
制限緩和の評価をどうする?
法案施行から早ければ18カ月後に、最初の1年間における社会的影響(子どもや若者の消費行動)を評価することになっています。一方、現在までの大麻使用状況は把握されていない(ドイツの厚生省[BMG]のQ&Aより)ことから、影響の目安を何で評価できるのか明らかになってはいません。
CDU・CSUは法案撤回の方向
前政権を担っていたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、「政権を取ったら大麻取締法を廃止したいと考えている」としています。
現時点でのまとめ
今回のドイツの法改正は、取締りが手に負えなくなったからという状況が背景にあります。SNS上では大麻が「合法な国がある」「無害である」などさまざまな情報にあふれていますが、特に青少年への有害性は十分に知っておくことが重要です。
日本における大麻の扱い
大麻の所持は刑罰対象
個人的な使用が目的で所持していた場合には5年以下の懲役、利益を得ることが目的の場合は7年以下の懲役、200万円以下の罰金が課せられます。個人的な使用が目的で輸入した場合は7年以下の懲役となります。
日本への持込みは厳禁
どのような理由にせよ、大麻を日本へ持ち込むことは許されません。入国時の空港には優秀な麻薬犬がスーツケースをチェックしています。興味本位に、あるいは知人から預かって大麻成分を含む飲食物を日本に持ち込めば、大きな代償を払うことになります。
大麻医薬品の使用は不可
大麻から製造された医薬品の使用は禁じられています。仮にドイツで治療に用いられている大麻薬品であっても日本への持込みはできません。大麻医薬品の是非に関しては、厚労省の大麻規制検討小委員会で幅広く議論され、認可される方向になっています。