太陽フレアによる磁気嵐の影響で、ドイツでも日本でもオーロラが見られましたが、人体への影響はないでしょうか?黒点、太陽フレア、磁気嵐の関係がよく分かりませんが、私たちの社会生活に影響するのかどうかを知りたいです。
Point
- 太陽活動には11年周期がある
- 地磁気と高層空気が太陽風の影響を遮断
- 太陽フレアによる地上の人間への影響は報告なし
- 飛行機乗客は被ばくが増える可能性
- 精密機器、通信、GPS障害の可能性
- 太陽活動の健康への影響には不明のことも
太陽活動のキーワード
太陽(Sonne)はガス(気体)
地球から約1億5000万キロメートル離れた太陽は地球のような固体ではなく、主に水素そしてヘリウムという二つの気体でできています。中心部で水素の核融合反応によって絶えず莫大なエネルギーが作られ、私たちに熱と光を与えてくれています。太陽からは「太陽風」(Sonnenwind)と呼ばれる電離したガス(プラズマ=陽子などの電気を帯びた粒子の集合体)が吹き出され、地球にも降り注がれています。
太陽の黒点(Sonnenfleck)
「黒点」は、太陽の磁じば場活動によって生じるもので、11年周期で増えたり減ったりしています。なぜ11年の周期があるのか分かっていません。黒点の数が増えてくると、太陽フレア(次項)や大きな磁気嵐が起きやすくなります(宇宙地球環境研究所)。
太陽フレア(Sonneneruption)
「太陽フレア」とは、太陽の黒点の周辺で二つの磁場のエネルギーが接触して、太陽の表面が突然明るく光る爆発現象です。太陽フレアに伴い大量のプラズマが、惑星間空間に噴出されることを「コロナ質量放出」(CME)といいます。
プロトン現象(Protonensturm)
太陽からのエネルギーの高いプロトン(陽子=最も多いのが水素原子の核)の量が突然増えることを「プロトン現象」といいます。太陽フレアに伴い発生した高エネルギープロトンは、30分から数時間で地球に到達し、地球にもさまざまな影響を与えます。
磁気嵐(地磁気嵐、magnetischer Sturm)
太陽フレアに伴って放出された大量のプラズマが地球に到達し、地球の磁気圏が大きく乱されることを「磁気嵐」と呼びます。今年5月、数回の太陽フレアにより地球の磁気嵐が発生しました。
地球の防御
地球の防御システム
地球を守っている防御システムの一つに「磁気圏」(Erdmagnetfeld)があります。磁気圏とは、地球自身の磁場の勢力範囲のことです。太陽風やコロナ質量放出(CME)からのプラズマは、この磁気圏をはじめとしたバリアによって曲げられ、地上には届かないとされています。
高層大気のバリア
高度80キロメートルから数百キロメートルの高層大気(電離層、Ionosphäre)にて、人体に有害な太陽からの電磁波であるガンマ線、太陽X線、極端紫外線、さらに高エネルギー粒子である陽子、中性子、電子、α線などの大部分を吸収してくれます。
5月に中緯度地域でオーロラを観測
大規模な太陽フレアにより地球で磁気嵐が生じ、地磁気が大きく乱されました。そのため、通常は北緯65度以北の高緯度でしか観られないオーロラ(Aurora)が、北緯40度付近の中緯度地域でも観測されました。カナダのヴィクトリア大学によると、今回はバンクーバー島沖にある水深25メートルでも磁気変化が観測されたとのことです(5月15日のUVic News)。
※色、大きさ、形、距離は実際とは異なります
健康と社会生活への影響
太陽光と人間の関係
そもそも太陽光と健康には強い関連があります。太陽の光によりビタミンDが作られ、骨を強くしています。晴れた日は爽快で、どんより曇った日は落ち込み気分、冬季うつやうつ気分の治療には強い光に当たる「光療法」が効果的です。明るさによって分泌される松果体ホルモンのメラトニンは、私たちの日内リズムと睡眠に大切です。
電磁界と健康
電磁界と人の健康はまだ分かっていないことが多くあります(経済通産省)。私たちの神経活動や心臓の運動は生理的な電気の流れでコントロールされています。精密検査に用いるMRI(ドイツではMRT)は磁力を用いて体内を知るものです。
太陽フレアによる健康への影響は?
常に変化する太陽現象は目に見えないため、人間への直接的な影響は不明なところが多いとされています。一方で、前述の地球を取り巻く防御により、太陽フレアによる地上にいる人間の健康への明らかな影響はないと考えられています。また太陽黒点の11年周期に一致して増減する病気も知られていません。
分かっていないことも
宇宙天気情報の充実に伴い、太陽活動の気分変化への影響(2001年のAdv Space Re誌)、電磁場のメラトニン(2013年のRadiat Prot Dosimetry誌)などのホルモンへの影響、地磁気活動の心拍数(2018年のNature Scientific Reports誌)や血圧への影響、太陽の磁気活動の白血球への影響(2022年のEnvironRes誌)などが報告されています。これからの研究領域「Heliobiology」(太陽生物学[仮訳])として、研究が進められています(2021年のAtmosphere誌)。
航空機の乗客と乗務員への影響
一般的な航空ルートでドイツから日本を飛行機で1往復すると、おおよそ0.1~0.2ミリシーベルトほど被ばくします。この被ばく量は胸部レントゲン検査約2回分に相当し、頻繁に上空を移動する乗務員はさらにリスクが増します(2016年の国際放射線防護委員会[IRCP]報告書 No.132)。この5月のように巨大な太陽フレアが発生すると、太陽放射線の強度は突発的に増加し、被ばく線量が高くなることが危惧されています(2021年のNature Scietific Reports誌)。
通信への影響
大きな太陽フレアにより短波通信やラジオ放送の障害(デリンジャー現象)、航空機では地上管制との通信障害や測位誤差により航路変更を要するほか、人工衛星のコンピューターの誤動作、GPSの位置誤差、送電施設など電力システムなどでの障害を生じることがあります(国立研究開発法人情報通信研究機構)。
宇宙飛行士への影響
前述の地球が防御する範囲を超えたところを飛ぶ宇宙飛行士の場合は、太陽や太陽系以外(銀河宇宙線)からの電磁放射線が宇宙船も宇宙服も通り抜けて、直接さらされることになります。
現在の宇宙天気を知るには
日本の国立研究開発法人情報通信研究機構のウェブサイトから日本語の宇宙天気予報を知ることができます。また無料登録をすることにより毎日の宇宙天気情報や今回のような太陽フレア、コロナ質量放出、プロトン現象、磁気嵐などの臨時情報をメールで受取ることができます。