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夏のマダニ感染症 - ダニ脳炎以外の病気

北ドイツに住んでいますが、子どもが外でダニに噛まれたまま気付かずに帰宅しました。熱などが出たりしないか心配です。放っておいても大丈夫でしょうか。

Point

  • マダニはドイツ全域の草むらに生息。
  • ボレリア症はドイツでも最も多いダニ感染症。
  • 特徴的なのは刺し口部位の環状の紅斑。
  • ボレリア症には特定の抗菌薬が有効。
  • マダニに噛まれても痛みはなく、気付かないことも。
  • 野外活動の後は皮ふ表面のチェックを。

マダニは全ドイツで発生

● マダニの発生分布
ダニ脳炎(FSME、980号・2014年6月20日発行参照)は南ドイツで多発していますが、マダニ(Zecke)の発生自体はドイツ全体でみられ、今年は特に北ドイツでの発生が際立っています。

マダニの活動状況

● マダニの発生時期
ドイツでは、毎年5〜6月がマダニの活動期です。今年のように穏やかな冬の後は、発生が顕著です。マダニは春先から秋頃まで活動し、成虫も幼虫も冬の間の活動はみられません。

● マダニの居場所と生態
草むらや高さ1.5メートル程の草木の先端部分に潜み、人や近付いてくる動物が発する二酸化炭素や体温に敏感に反応して、獲物に飛び移ります。実際、実験的に飼われているマダニに人の息を吹き掛けると、一斉に動き出すことが確認されています。マダニは、絶食状態が続いても相当長く生き延びることができると言われています。

● 血を吸うと大きくなる
マダニの大きさは3〜5mm大ですが、吸血後には1cm程の大きさにまで膨らみます。動物や人の皮ふに口器を刺して数日間にわたり吸血しますが、吸われている方は気付かないことが少なくありません。

ボレリア症(ライム病)

● 最も多いダニ感染症

ボレリア症(Lyme-Borreliose)はドイツで最も多いマダニ感染症です。2010年のロベルト・コッホ研究所の調査によると、旧東ドイツ地域(7州)からの届け出は年間平均4000〜5000人程度とのことですが、欧州全体では年間数万人の人が感染すると言われています。発症年齢のピークは5〜9歳の子どもと、草むらを散策することの多い中高年世代です。

● 病原体はスピロヘータ
感染の病原体はラセン状( スピロヘータ、Spirochäten)をしたボレリアという細菌です。ボレリアに汚染されたマダニは100匹に1匹と言われ、噛まれた場合の感染率は約50%です。気付かずに48時間以上にわたり吸血されると、感染のリスクが高まります。人から人への感染はありません。

● 環状の発赤が初期症状
まず、マダニに噛まれた部位でボレリアが増殖し、3〜4週間(潜伏期)後に噛まれた箇所を中心に遊走性紅斑(Erythema migrans)と呼ばれる環状の発赤がみられます。同時にインフルエンザに似た発熱・頭痛が現れます。

● 臨床症状は多彩
ボレリア菌が全身に広がるにつれ、初期症状として顔面神経麻痺、髄膜炎のような神経症状、関節炎、心筋炎や不整脈、さらに虹彩炎や角膜炎といった目の症状が出てきます。感染から数カ月〜数年を経過すると、晩期症状として慢性の関節炎や重度の皮膚症状が現れます。

● 治療は抗菌薬
前述のようなボレリア症の治療には、抗菌薬(抗生物質、Antibiotikum)が有効です。予防用のワクチンはありません。

ボレリア症(ライム病)の症状

その他のマダニ感染症

● ダニ媒介性回帰熱(Rückfallfieber)
回帰熱ボレリアによる感染症です。インフルエンザに似た症状(高熱・筋肉痛・関節痛)が現れる「発熱期」と、「無熱期」を数回繰り返すため、回帰熱と命名されました。肝臓が腫れて黄疸がみられたり、高血圧、皮ふの点状出血、鼻血、血尿がみられることもあります。

● 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
マダニによって媒介されるSFTS ウイルスによる感染症です。1〜2週間の潜伏期を経て、発熱と下痢などの消化器症状、さらに血小板数が減って出血が止まりにくくなるという症状がみられます。数年前から中国でみられ、2013年からは九州、四国、中国、近畿地方を中心に日本でも発症しています。死亡率は高く、約40%です。欧州での発症はみられていません。

● 日本紅斑(こうはん)熱
マダニによって媒介される日本猩紅(しょうこう)熱リケッチア(細菌)による感染症です。① 高熱、② 全身に広がる米粒大の紅斑、③ マダニによる刺し口が特徴です。日本国外ではほとんどみられず、国内も西日本(特に伊勢志摩地域)に集中しています。リケッチアに対する抗菌薬が有効です。

● Q熱(コクシエラ症)
原因不明の熱(Quary fever)の頭文字をとって付けられた病名で、リケッチアの一種であるコクシエラによる感染症です。マダニによる感染のほか、野生動物・家畜・ペットの排泄物の塵(ちり)を吸い込んだり、牛や羊の未殺菌の乳製品によって感染します。感染者の約半数が発熱や筋肉痛、呼吸器症状で発症し、大半は2週間以内に改善します。治療には、リケッチアに感受性を持つ抗菌薬が用いられます。

ほかにもあるマダニ感染症

マダニ感染症の予防

● 草むらや藪に注意
春から秋にかけて、ドイツ国内、日本全国のどこでもマダニの活動がみられます。ちょっとした草むらでもマダニが潜んでいると思ってください。

● 服装が大切
草むらや藪の生い茂った道を歩く際には、長袖・長ズボン・靴下を着用し、シャツの裾はズボンの中に入れ、サンダルは避けましょう。

● 野外活動後は皮ふの確認を
マダニはごく小さい上、たとえ噛まれても痛みがなく、気付かないことがほとんどです。野外活動の後のシャワーや入浴時に、マダニに噛まれていないか確認しましょう。特に脇の下、膝の裏側、手首や足の付根に注意してください。

 

 

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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