ジャパンダイジェスト

ドイツの疾病保険の特徴 1:法的疾病保険

この4月にドイツ駐在となりました。こちらの健康保険も日本と同じ仕組みだと思っていましたが、ドイツ在住の友人から色々な違いがあると聞きました。どのような点が違いますか? 加入の際に気を付けるべきことはありますか?

Point

  • ドイツ在住者には原則的に加入義務があります
  • 法的疾病保険(GKV)とプライベート疾病保険(PKV)の二種類があります
  • GKV加入者はかかりつけ医の登録を
  • GKVは、診療や処方薬の保険適応範囲に一定の枠が設けられています
  • GKVの場合、収入のない扶養家族の保険料は無料です
  • 収入に応じてGKVの保険料が決まります
  • どの疾病金庫でも保険サービスの内容はほぼ同じ

日本の「健康保険」と ドイツの「疾病保険」

● 日本もドイツも国民皆保険制度

誰もが安心して医療を受けられる日本の国民皆保険制度は、ドイツの疾病保険をモデルに大正15年(1926 年)に作られました。それ以来、日本もドイツも、変更や改善を加えながら現在に至っています。日本の「健康」保険とドイツの「疾病」保険という微妙な表現の違いに暗示されるように、基本的な理念は同じでも、運用面で大きく異なる点があります。

● 法的疾病保険とプライベート保険

日本との違いの一つは、疾病金庫が運営する法的疾病保険(gesetzliche Krankenversicherung、GKV) と民間の疾病保険会社によるプライベート疾病保険(private Krankenversicherung、PKV)の2本立てになっていることです。国の国民皆保険制度の柱の一つに民間保険が組み込まれているのが、ドイツの医療保険制度の最大の特徴です。

ドイツの公的保険(GKV)のしくみ

ドイツの公的保険(GKV)のしくみ

ドイツのプライベート疾病保険(PKV)のしくみ

ドイツの公的保険(GKV)のしくみ

● 保険診療項目 = 保険で全てカバー」ではない

二つ目は、ドイツの公的保険GKVでは、検査の範囲、治療薬の選択にかなりの枠が設けられていることです(後述)。より柔軟に対応してくれるプライベート保険も、保険診療報酬法(GOÄ)に則った診療項目全てを無条件にカバーし、医療費の全額負担を保証するものではありません。

日本とドイツの国民皆保険制度の特徴

日本 ドイツ
1 国民全員を公的医療保険で保障 ドイツ住民を公的と民間医療保険で保障
2 医療機関を自由に選べる 医療機関をほぼ自由に選べる
3 安い医療費で高度な医療 公的保険の適応範囲には枠あり
4 社会保険方式を基本としつつ、皆保険を維持するため公費を投入 疾病基金は独立採算制を維持
5 総医療費の増大を抑えにくい 水準を維持した上で、医療費を管理しやすい

※日本の特徴については 厚生労働省の「我が国の医療保険について」をもとに作成

● 公的保険GKVの基本情報

ドイツに暮らす人の約9割が加入している公的保険GKVは、疾病金庫(Krankenkasse)によって運営されています。そのため加入者はKassenpatient/-tinとも呼ばれます。GKVの保険適応となる検査項目、治療薬の種類は疾病金庫が認めた範囲内のみとなります。

日本とドイツの国民皆保険制度の特徴

日本の健康保険 ドイツの公的保険
運営母体 保険組合 疾病金庫
加入 皆保険 強制保険で加入義務あり
保険料 所得に応じる 所得に応じる
医療機関 全て 公的保険を扱う機関
検査 全て 一定の制限あり(ジェネリック医薬品を優先)
治療薬 全て 一定の制限あり
入院 大部屋・個室 大部屋
診療費 一部負担あり 無料
保険適応 ほぼ100% 一定の制限あり

※おおよその目安

● 保険料は所得額に応じて決まる

公的保険GKVの財源はすべて保険料のみでまかなわれていて、 その保険料は年齢や性別とは関係なく、所得額で決まります。給与所得者の場合には、収入の一定額の保険料を雇用者と被雇用者で折半します。収入が一定以上の金額に達すると、公的保険GKVへの加入義務が解除されてプライベート保険へ移行できますが、将来の経済状態なども考慮し、自分の意志で公的保険に留まる人もいます。

公的保険への家族の加入

● 家族の加入はどうなりますか?

扶養家族(収入のない配偶者、子供)は無料で公的保険GKVに加入できます。収入のある家族は、保険料を払って各々がGKVに加入します。

● かかりつけ医の制度

公的保険GKVの加入者は、かかりつけ医を「ハウスアルツト(Hausarzt/-tin)」として登録しておくと、通常の診療に加え、必要に応じて専門診療科への紹介、病院での入院の手配してくれます。

● 診察は公的保険GKVを扱う医療機関で

外来受診は、公的保険GKVの診療を行っている開業医で受けます。大きな都市では、プライベート保険の患者に対してのみ診療を行っている医療施設もあります。そこでの受診はGKV患者の自費負担となってしまいますので留意してください。

● 処方薬はジェネリックが主体

同じ成分のジェネリック薬(後発医薬品の意)がある場合、ジェネリック薬が優先されます。実際、GKV患者への処方件数の75%がジェネリック薬です。また、医師が「代替調剤不可」と処方箋に記載しない限り、薬局では薬効が同等で、より低価格な薬を代替調剤する仕組みになっています。

● 診療時の支払いは?

原則的に診察時の支払いはありません。処方箋代も四半期ごとに家庭医に支払われる患者1人当たりの診療費(最大約30ユーロほど)に含まれ、実質的な患者負担はありません。薬局で、薬代によって一定の額(5ユーロか10ユーロ)を支払いますが、それ以上の薬代の負担はありません。

● 公的保険GKVの健康診断

35歳以上のGKV加入者は2年に1度、成人病の健康診断(Vorsorgeuntersuchung)を受けることができます。ただし、内容は一般診察、身体計測、血圧測定、空腹時血糖、総コレステロール値 、尿検査一般です。日本で行われている成人病健診、市町村健診、企業健診の検査項目と比べると、かなり少ないといえます。そのため、GKVの健康診断項目に加え、例えば腹部超音波、甲状腺機能、眼圧測定、腫瘍マーカーなどの検査項目を組み合せて健康診断を受けることができます。これをIGel(individuelle Gesundheitsleistungen) と呼んでいます。詳しくは、最寄りの医療機関に相談してください。

● 乳がん検診は?

ドイツでは、50〜69歳の女性は、乳がん検診プログラムに則って2年に1度のマンモグラフィーによる検診を受けることができます。また、30歳以上の女性については、年1回の触診による乳がんチェックを受けられます。一方、日本人女性の乳がんは30歳代からみられ、罹患率の最大ピークも40歳台と欧米人に比べて若いため、ドイツの検診プログラムと日本人の乳がん罹患年齢との間に差があるのが現状です。

● 歯科での治療

歯科領域は日本と状況が大きく異なっています。日本では健康保険の対象となっている虫歯の治療も、公的保険GKVで処置できるのは最小限の範囲に留まり、自費負担になることが少なくありません。虫歯は「歯磨きが悪いために起こった自己責任の病気」と捉えられていることが背景にあるようです(2016年10月21日発行、コラム「ドイツ歯科事情」より)。

● ドイツ国外への旅行

自分の加入している公的保険GKVがドイツ国外でのEU圏内で有効か、さらに日本に一時帰国する際に病気になった時にも使えるか、一度確認しておくと良いでしょう。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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