ジャパンダイジェスト

女性の更年期障害

今年で50歳になったのですが、急に顔がのぼせたり、汗が出たり、肩こりが強く、疲れやすくなりました。昨年から生理不順になり、この3月からは生理がみられません。内科で検査を受けましたが異常がないと言われました。年齢的にも更年期障害が考えられるのでしょうか。

Point

  • 閉経前後の約5年間ほどが更年期
  • 更年期障害は加齢による卵巣機能低下が主な原因
  • 時に不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる多彩な症状を呈する
  • 女性ホルモン減少と自律神経障害の症状が混在
  • ホルモン補充療法(HRT)が奏効することが多い
  • HRTを行ってはいけない場合もあるので留意

更年期(Klimakterium)とは

閉経期前後の数年間

年齢とともに卵巣の活動が低下し、月経が永久に停止するのが「閉経」(Menopause)です。通常はほかの原因がなく1年(12カ月)以上生理が来ないと、「閉経」と判断します。「更年期」は閉経前後の5年間ほどを指します(日本産婦人科学会)。

男性にも更年期

男性の加齢による男性ホルモン(アンドロゲン)の低下に伴う症状も、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)として注目されてきています(日本泌尿器科学会)。詳しくは次回ご紹介する予定です。

閉経の年齢は?

一般的な閉経の年齢は40~50代で、日本人の平均は50歳前後です。兵庫県内で神戸大学が行った自然閉経年齢の調査では、閉経時の年齢は30~59歳まで広範囲にわたっていました(1989年の医学誌「民族衛生」より)。

早発卵巣不全・早発閉経とは

40歳以下で4~6カ月以上継続して卵巣性無月経となった場合を「早発卵巣機能不全(POF)」と呼び、このうち卵巣機能の不可逆的低下により排卵が望めないものを「早発閉経」としています。

更年期障害の症状(klimakterische Beschwerde)

さまざまな症状・不定愁訴

突然に顔が火照る、顔だけに汗をかく、イライラして怒りやすくなる、肩こり、急な動悸、疲れやすくなる、デリケートゾーンの乾燥感など、じつにさまざまな症状がみられることから一般に「不定愁訴」(unbestimmte Klage)とも言われます。

更年期障害でみられる症状の例

自律神経系
(血管運動の異常)
• ホットフラッシュ(突然の顔の火照り、発汗)
• 動悸
女性ホルモン減少 • 乳房の縮小
• 色素沈着
• 膣乾燥
ほかの身体症状 • 肩こり
• 腰痛
• 頭痛
• 疲れやすい
心の症状 • 怒りやすくなる
• イライラする
• 眠れない
• 気分が沈む

女性ホルモン低下に伴う症状

卵巣からの女性ホルモン(卵胞ホルモン=エストロゲン、黄体ホルモン=プロゲステロン)の分泌が減少すると、皮膚の萎縮と色素沈着、乳房の縮小、性器の萎縮、骨の弱化など、女性ホルモンの低下による変化が見られます。

「ホットフラッシュ」など自律神経症状

更年期障害では「ホットフラッシュ」(Hitzewallung)と呼ばれるように、脈絡もなく突然顔がカーっと火照って、汗がダラダラと出てくるような、自律神経に支配される血管運動障害が特徴的です。

イライラ感などの症状

さらに、イライラ感、不安感、落ち込んだ気分、不眠、意欲の低下などが表れることがあります。日によって症状の変化が大きいのも特徴的です。 

更年期障害発症のメカニズム

パンフレット

まず卵巣の機能低下が引き金

更年期の症状は、エストロゲンやプロゲステロンなどの卵巣からのホルモン分泌が低下することが起因となります。

卵巣機能を保とうと脳下垂体の性腺刺激ホルモン増加

卵巣のホルモン分泌が減ると、脳の視床下部というところを介して卵巣のホルモン産生を調節している脳下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体刺激ホルモン(LH)が大量に分泌され(フィードバック機構と呼びます)、なんとか卵巣機能を維持しようとします。

視床下部の自律神経中枢にも影響

前記の視床下部はホルモン制御の中枢と、自律神経系の司令塔としての働きを担っています。卵巣機能低下が自律神経症状を併せ持つのは、視床下部を巻き込むためです。

女性の更年期障害の治療

ホルモン補充療法(HRT)

不足している女性ホルモンを補い、ホルモンバランスと視床下部の自律神経系中枢への影響を改善するのがホルモン補充療法(HRT)です。実際のHRTでは、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンを補充します(後述)。

漢方薬

心身のバランスを回復させる働きを期待します。日本国内では女性のための3大漢方薬として「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」(ツムラ漢方23)、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」(ツムラ漢方24)、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」(ツムラ漢方25)などがよく用いられます。

ほかの対症療法

更年期障害に伴う不眠や精神的ストレスの関与が大きい際には、抗不安薬、睡眠薬が用いられる場合も。

ホルモン補充療法に関するQ&A

ホルモン補充療法と普及度

ドイツでのHRTの経験のある割合は45~54歳が約30%、55~64歳が約45%、65歳以上が約60%に対し(2015年第10回欧州更年期会議の発表より)、日本は1.7%と低いのが現状です(2009年の医学会誌「更年期と女性のヘルスケア」より)。

乳がんのリスクを増やす心配は?

乳がんの発症率は、HRTを5年以上継続した人は治療しなかった人に比べて少し増えるものの、 乳がんによる死亡率は変わらないとされています(日本産婦人科学会のHRTガイドラインより)。日本ではHRT治療者には年に一度の乳がん検診がすすめられています。

子宮体がんのリスクを増やす心配は? 

エストロゲン単独療法では子宮体がんのリスクが高まります。プロゲステロンを併用すると子宮体がんの発症率は上昇しないと報告されています(日本婦人科学会)。

HRT治療を受けられない人は?

現在、乳がんや子宮体がんがある人、重症の肝障害、妊娠が疑われる場合、血栓症・心筋梗塞・脳卒中の既往のある人は受けてはいけません(日本産婦人科学会)。

HRTは飲み薬ですか?

HRTには経口剤(飲み薬)と経皮剤(貼り薬、塗り薬)があります。投与方法としては、❶エストロゲンと黄体ホルモンの投与、❷エストロゲンの単独投与(子宮切除している場合など)と状況に応じて選択。

HRTで生理のような出血が?

エストロゲンにより増殖した子宮内膜を、一定期間のプロゲステロンの作用により出血を起こさせて子宮内膜をきれいにして子宮体がんを予防するHRT療法があります。出血は起こりますが、排卵は伴いません。

骨粗しょう症の予防に役立ちますか?

閉経後5年以内に始めるHRTは骨粗しょう症、動脈硬化の予防にも有効と考えられています。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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