ジャパンダイジェスト

2021年の連邦議会選挙で緑の党が政権入りか?

今ドイツだけでなく欧州全体が、環境政党・緑の党の一挙手一投足に注目している。その理由は、来年9月26日の連邦議会選挙で、緑の党が連立政権に参加する可能性が強まっているからだ。政権参加が実現すると、同党は1998年の赤緑連立政権以来、23年ぶりに政権の一翼を担うことになる。

11月21日、緑の党のオンライン党大会で話すハベック氏(左)とベアボック氏(右)11月21日、緑の党のオンライン党大会で話すハベック氏(左)とベアボック氏(右)

緑の党の支持率は第2位

緑の党は11月20日から3日間にわたり、初のオンライン党大会を開いた。共同党首の1人であるアンナレーナ・ベアボック氏は、「われわれは2021年に新たな時代をスタートさせる」と党員たちに呼びかけた。もう1人の共同党首であるロベルト・ハベック氏も、「長年にわたり、緑の党の政権入りについては、拒否反応が示されることが多かった。しかし、今ではそういう時代は過去のものだ」と述べ、権力の座に就くという願望を強く前面に押し出した。

彼らの自信は、世論調査の結果によって裏打ちされている。世論調査機関インフラテスト・ディマップが12月3日に行った政党支持率調査によると、緑の党の支持率は21%。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の36%に次いで第2位だった。このため、メディア関係者らの間では来年の連邦議会選挙以降、CDU・CSUと緑の党が全国レベルでは初の黒緑連立政権を樹立するという見方が強まっているのだ。緑の党は、16の州政府のうち11カ所ですでに連立政権に参加しており、地方レベルでは政権担当の経験を十分に持っている。

政党支持率調査(2020年12月3日実施)

資料=インフラテスト・ディマップ
政党支持率調査(2020年12月3日実施)

気候変動への懸念が背景に

緑の党の人気の背景は、市民、とりわけ若年層の間で地球温暖化問題に関する懸念が強まっており、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの本格的な削減を加速するべきだと考える人が増えていることだ。

この動きは、昨年欧州を中心に多くの若者が環境保護運動「Fridays for Future(未来のための金曜日)」の呼びかけに応じ、授業のボイコットや抗議デモに参加したことと密接に関係している。ドイツは欧州で最も環境意識が高い国の一つだが、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンべリ氏のメッセージを最も真剣に受け止めたのは、ドイツの若者たちだった。

ドイツでは気候変動政策を重視する政党の支持率が高まり、軽視する政党は票を減らす。この傾向が最もはっきり現れたのは、昨年5月26日に行われた欧州議会選挙だ。ドイツの欧州議会選挙で、緑の党は20.5%の票を獲得した。同党は、前回(2014年=10.7%)に比べて得票率を約2倍に増やしたのだ。緑の党が全国規模の選挙で第2党になったのは初めてである。この選挙で、CDU・CSUと社会民主党(SPD)は、地球温暖化問題を重視した選挙戦を行わなかったため、両党の得票率は前回に比べて減ってしまった。

経済の非炭素化を加速へ

CDU・CSUなどの伝統政党も政策を急激にグリーン化させ、気候変動政策を重視するという方針を打ち出している。緑の党によって、これ以上支持者を奪われることを防ぐためだ。またドイツの経済団体も、緑の党の政策担当者と定期的に勉強会を開くなどして、相互理解を深めようとしている。

さて、今年11月の党大会で緑の党が採択した政策綱領を読むと、同党が経済の非炭素化を急激に進めようとしていることが分かる。例えば、同党は「2030年までに電力需要を100%再生可能エネルギーによってカバーする」という目標を打ち出した。メルケル政権は、2038年までに褐炭・石炭火力発電所を廃止する方針だが、緑の党は脱石炭をそれよりも8年早めることを要求。さらに、2030年以降はCO2を排出する新車の販売を禁止することを目指している。

緑の党の執行部は穏健派

こうした政策については、将来CDU・CSUや産業界から不満の声も出るだろう。しかしベアボックおよびハベック両共同党首は、緑の党で実務派・穏健派とみられており、異なる意見を調整する能力に長けている。党内の左派勢力から「環境保護政策が甘すぎる。CO2削減をもっと加速するべきだ」と批判されているほどだ。緑の党が政権入りすることになった場合、党執行部は政策の穏健化を図るに違いない。

1998年の連邦議会選挙で緑の党がSPDと組んで初めて政権に就けたのも、ヨシュカ・フィッシャー氏ら穏健派が党内の急進派を抑え込んで、現実的な政策を実行したからだ。緑の党が来年の連邦議会選挙でどの程度の得票率を示すかは、政局の最大の焦点の一つである。2021年は、ドイツの将来を大きく左右する年になるだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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