ジャパンダイジェスト

ザクセン=アンハルト州で CDUが予想外の圧勝

6月6日にザクセン=アンハルト州で行われた州議会選挙で、与党キリスト教民主同盟(CDU)が世論調査機関の予想を覆し、第2党であるドイツのための選択肢(AfD)に大差をつけて圧勝した。この選挙結果は、連邦議会選挙の首相候補であるアルミン・ラシェット氏(CDU)にとっても追い風となる。

6日、議会選挙の勝利を祝うハーゼロフ州首相と妻のガブリエル氏6日、議会選挙の勝利を祝うハーゼロフ州首相と妻のガブリエル氏

AfDに約16ポイントの大差

CDUの得票率は、37.1%という高水準に達した。2016年の選挙に比べて得票率を7.4ポイントも増やした。第2位のAfDは前回から得票率を3.5ポイント減らし20.8%だった。CDUはAfDに対して16.3ポイントもの大差をつけた。「CDUとAfDの接戦になる」という大半の世論調査の予想は、完全に外れた。

CDUが勝ったのは、10年前から州首相を務めているライナー・ハーゼロフ氏が、市民の信頼をつなぎとめることに成功したからだ。特に同氏が、「AfDとは絶対に連立や協力を行わない」という態度を明確にしたことは重要だった。AfDは今年3月以来、連邦憲法擁護庁から「議会制民主主義に脅威を与える団体」として監視されている、事実上のネオナチ政党だ。

ザクセン=アンハルト州のCDUの中には、かつて「AfDとの連立の可能性を探るべきだ」と主張する者もいた。これに対しハーゼロフ氏が極右勢力への接近に反対した点は、特に女性や60歳以上の有権者から強く支持された。前回の選挙でAfDに投票した有権者のうち、約1万6000人が今回CDUに鞍替えした。彼らは、選挙前に「CDUとAfDが接戦を演じ、極右政党が第1党になる可能性もある」というニュースに恐れをなして、CDUに票を投じたのだ。

有権者は安定と継続を望んだ

ドイツの政界にはAmtsbonus(現職ボーナス)という言葉がある。現職の首相の政党は常に有利という意味だ。その意味でハーゼロフ氏の勝利は、今年3月のバーデン=ヴュルテンベルク州議会選でのヴィンフリート・クレッチュマン首相、ラインラント=プファルツ州でのマル・ドライヤー首相と似た面がある。有権者は安定を求めて「見慣れた顔」を選んだ。

これに対して振るわなかったのが、左派政党である。左翼党(リンケ)は前回の選挙に比べて得票率を5.3ポイント減らして11%、社会民主党(SPD)は2.2ポイント減らして8.4%とそれぞれ一敗地にまみれた。また緑の党の得票率は5.9%で、前回に比べて0.8ポイントしか伸びなかった。ザクセン=アンハルト州の有権者にとっては、社会的公正や雇用確保の方が、二酸化炭素の削減よりも重要だった。旧東ドイツでは、緑の党の支持基盤は旧西ドイツよりもはるかに弱い。緑の党のアンナレーナ・べアボック共同党首に臨時収入の申告漏れがあったという報道も、逆風となった。

中小企業経営者らに人気がある自由民主党(FDP)は、得票率を1.6ポイント増やして6.4%となった。「5%の壁」を越えてザクセン=アンハルト州議会に復帰することも、有権者が左派政党による実験ではなく、「経済と社会の安定」を選んだことを示している。

「宿敵」がラシェット氏の追い風に

さて、この選挙結果を聞いて、ドイツで最も喜んだのは、ラシェットCDU党首かもしれない。ザクセン=アンハルト州議会選挙は、9月の連邦議会選挙前の最後の州議会選挙であり、中央政局にとっても重要なリトマス試験紙になると見られていた。万一同州でCDUが前回に比べて得票率を大幅に減らし、AfDに首位を奪われていたら、ラシェット候補は党内で指導力を問われ、政治的な大打撃となるところだった。だがCDUの圧勝でそうした事態は避けられ、ラシェット氏は党首としての地位を固めることに成功した。

もともとラシェット氏とハーゼロフ氏の関係は、ぎくしゃくしていた。その最大の理由は、今年4月にラシェット氏とキリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダ―党首が首相候補の座をめぐって争った時に、ハーゼロフ氏がCDU内部の足並みを乱して、ゼーダ―氏を支持したからだ。ハーゼロフ氏は、世論調査でゼーダ―氏の人気がラシェット氏を上回っていたため、CSU党首の方が首相候補には適任と考えた。ハーゼロフ氏は、CDU役員会の中で最初にゼーダ―側についたために、ラシェット氏の不興を買っていた。

またハーゼロフ氏は、今年5月に「連邦政府が新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために実行した非常ブレーキ政策は、一部の市民の間でAfDの人気を高めている」と述べ、メルケル政権に対する不満を表明。さらに「パンデミックのような緊急事態には、政府はワクチンを欧州連合(EU)を通じてだけではなく、独自のルートでも購入するべきだ」として、政府のワクチン政策を間接的に批判する発言をしている。

そのハーゼロフ氏がザクセン=アンハルト州での勝利により、図らずもラシェット氏の連邦議会選挙戦にとって強力な追い風をもたらしたことは、皮肉だろう。CDUは党内の意見の対立を克服して、一丸となって闘えることを内外に示した。ラシェット氏は、選挙後の記者会見で、満面の笑みを浮かべながら「CDUは、極右勢力から民主主義を守る堅固な砦だ」と述べた。確かに同党は、今回AfD支持者の票の切り崩しに部分的に成功した。彼はザクセン=アンハルト州での圧勝を跳躍台として緑の党からも票を奪い、連邦首相府の執務室に入るための闘いを続けるだろう。

※1147号本連載の「欧州連合(EU)諸国の中で、戦闘が続いている最中に外相をイスラエルへ送ったのは、ドイツだけだ」という文章は、「G7加盟国の中で、(以下同)」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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