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反ユーロ政党 AfD・大躍進の秘密は?

8月から9月に旧東独の3つの州で行われた州議会選挙の結果は、メルケル首相(キリスト教民主同盟=CDU)が率いる大連立政権だけでなく、すべての政党に衝撃を与えた。

AfD が3つの州で議会入り

その理由は、ユーロ圏の廃止を求める右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が各党から票を奪って高い得票率を確保し、初の州議会入りに成功したからだ。AfDは、経済学者ベルント・ルッケやフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の元記者コンラート・アーダムらが昨年結党した新しい政党だ。同党はまず、8月31日にザクセン州議会選挙で9.7%の得票率を獲得し、キリスト教民主同盟(CDU)、左派党、社会民主党(SPD)に次ぐ第4位の政党の地位を確保した。

さらに、9月14日のブランデンブルク州議会選挙では12.2%、テューリンゲン州議会選挙でも10.6%を確保して、第4位の政党となった。AfDの得票率は、これら3つの州で自由民主党(FDP)と緑の党を上回っている。CDUはテューリンゲンとブランデンブルクで首位を維持したものの、この右派政党が初の州議会選挙で2桁の得票率を記録し、一気に3つの州議会に進出したことに強いショックを受けている。

ベルント・ルッケ党首
AfDのベルント・ルッケ党首

FDPの地位を奪う

AfDのルッケ党首は、「有権者たちは政治の変化を求めて票を投じた。既成政党は、これまでの快適な地位に安住するばかりで市民の利益を守ろうとしなかったために、今回しっぺ返しを受けたのだ」と高らかに勝利宣言を行った。

ドイツでは、小政党の乱立を防ぐために、得票率が5%に達しない政党は議会入りすることができない。FDPはこれらの3つの州で5%のハードルを越えることができず、泡沫政党として州議会から姿を消した。かつて、ゲンシャー、ラムスドルフなどの大物政治家を擁し、中央政界でも活躍したFDPの凋落の仕方は凄まじい。その空白をAfDが埋めることになるのだ。

EU批判が奏功

なぜAfDは、目覚ましい躍進を実現できたのか。その最大の理由は、同党が欧州連合(EU)を争点としたことだ。ルッケ党首は、ユーロ圏を廃止してマルクの再導入を求めるだけでなく、ギリシャやスペインなど、破たんの瀬戸際に追い込まれた国への支援措置を連邦議会が阻止できるようにすることを要求している。彼は、「各国の予算編成権はそれぞれの議会が持つべきであり、欧州中央銀行(ECB)や欧州委員会が議会の権限を制約することは許されない」と主張してきた。そしてAfDは、加盟国がユーロ圏から脱退することを可能にすべく、EU法を改正することも求めている。

メルケル首相は、「ユーロが破たんすれば欧州が破たんする」として、ギリシャの債務不履行やユーロ圏からの脱退を是が非でも防ごうとしてきた。また、ECBのマリオ・ドラギ総裁は、「どのような手段を講じてもユーロを防衛する」と主張する。AfDの政策は、これらの路線に真っ向から対立するものだ。さらにルッケ党首は、「南欧の過重債務国への支援措置が、ドイツの財政にどれだけの負担を掛けているかが不透明である。政府は市民の負担がどの程度になっているかを明示するべきだ」と訴えてきた。ドイツ人の中には、「なぜドイツが、ずさんな財政運営を行ったギリシャやスペインのために多額の支援をさせられるのか」という意見を持つ人が少なくない。AfDはこうした人々の心をつかみ、大躍進したのだ。

また、旧東独の失業率は現在も旧西独を上回っており、若者を中心に西側への人口の流出が続いている。このため市民の間では、旧西独に比べて現状に不満を持つ人が多い。彼らがAfDに「抗議票」を投じたことも、同党の勝利につながった。

「抗議政党」として票を獲得

ドレスデン工科大学のヴェルナー・パッツェルト教授は、公共放送ARDのインタビューの中で、「ドイツのすべての主要政党はメルケル政権のユーロ救済策を支持しているが、AfDは納税者に負担を強いる救済策を批判することで、現状に不満を持つ有権者を引き付けた」と分析。パッツェルト氏は、「AfDはメルケル首相が率いるCDUにとって重大な脅威になりうる」と考え、「AfDの票田は保守的な思想を持つ市民なので、CDUとの間で今後軋轢(あつれき)が生じるだろう。かつてSPDが、環境政党である緑の党や左派党によって票を食われたのと同じ運命をたどるかもしれない」と分析する。

これに対し、このポピュリスト政党を過大評価しないように戒める声もある。FAZ紙のユストゥス・ベンダー記者は、「AfDが国政選挙でも得票率を増やせるかどうかは、同党の州議会レベルでの今後の活動内容に懸かっている」と指摘する。さらに彼は、ユーロ廃止など、AfDの勝利をもたらした提言は、連邦議会や連邦参議院でのみ実現できるもので、州議会では限界があると分析した。メルケル首相はAfDの勝利について、「連邦政府が良い仕事をすることが、AfDの躍進に対する最良の回答だ」と述べ、保守本流に属する有権者層を守るという決意を表明した。

いずれにしても、EUに批判的な右派政党が、フランスに続いてドイツでも重要な政治勢力となったことは、伝統的な政党に「警戒信号」が点ったことを意味する。大連立政権は、AfDの拡大にどのようにして歯止めを掛けるのだろうか。

3 Oktober 2014 Nr.987

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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