ISBN: 978-4-86311-076-2
発行元:産業編集センター
クリスマスに先立つ約1カ月のアドヴェント(待降節)期間中に、ドイツ各地で開かれるクリスマスマーケット。長いようで短い冬のハイライトを、訪れる人は皆、噛み締めるように楽しむ。毎年、秋口になると、「今年はどこのマーケットへ行こう」と浮き足立つ人も多いはず。そんな“クリスマスマーケット・フリーク”の強い味方となる1冊がこちら。ベルリン在住のライター、見市知さんが、王道のニュルンベルクから、変わり種ならぬ個性派、情緒溢れる昔ながらのものまで、実際に訪れた全国津々浦々のクリスマスマーケットを地図付きで紹介するガイドブックだ。
ページをめくるたびに目に飛び込んでくる色とりどりの写真。じっと見ていると、どこからかバニラやシナモンの香りが漂ってきて、気分はすっかり賑やかなマーケットの中へ。もちろん、見て楽しむだけじゃない。さすがは地方色の強いドイツ、各マーケットを特徴付ける屋台の装飾や食べ物、飲み物、工芸品の数々が、「ご当地限定」ぶりを遺憾なく発揮し、改めてこの国の多様性、豊かさを知らしめてくれる。さらに、各所にちりばめられたクリスマスにまつわるエピソードの中に、「クリストキント」ってそもそも誰? どうしてマーケットの名物はレープクーヘンやシュトレン、グリューワインなの? など、ずっと気になっていたけれど、今さら人には聞けない素朴な疑問に対する答えを見出したとき、ドイツのクリスマスがぐっと身近なものになる。そして思う。キリスト誕生のお祝いだからって、畏まる必要はないんだと。
毎年、同じ場所に同じようなものが並ぶという、定番のイベント。それなのに、人々が待ち焦がれ、開幕と同時に堰を切ったように押し掛けるのは、きっとキラキラと輝くおもちゃ箱のようなクリスマスマーケットの中に、時代を超えて脈々と受け継がれてきた、目には見えない不変の価値が存在するからなのだろう。そんな視点で、著者の見市さんがめぐったマーケットを片っ端から歩き、まだ誰も知らないクリスマスの物語を探してみたくなった。(Y)