宗教改革に活力注入、ルターのお気に入りビール
今年は、マルティン・ルターによる宗教改革が始まって500年目の記念すべき年。ルター34歳の1517年10月31日、ヴィッテンベルクの教会の門に打ち付けた「95か条の提題」が無ければ、今のヨーロッパ社会はまったく別のものになっていただろう。
そのルターはビール好きだったことを存じだろうか? 特にお気に入りだったのがアインベックだ。「Der beste Trank, den einer kennt, wird Einbecker Bier genennt(人類にとって最も美味い飲み物はアインベッカービールと呼ばれている)」といったことが伝わっている。この言葉を残したとされる1521年は、ルターがヴォルムスの帝国議会でカトリック教会を否定し、帝国追放を宣言された年だ。アインベックはニーダーザクセン州南部にある都市。ハンザ同盟都市として栄えたこの街には、カラフルな装飾が施された木組みの建物が、その美しさを競うように軒を連ねている。古くから市民による自家醸造が盛んに行われており1378年にはこの街でビールが造られていたという記録が残っている。家々の開口部が高いのは、室内に可動式のビール釜の搬入を行うための名残だ。
アインベックのビールは高品質で知られており、南はミュンヘンやインスブルック、北はロシアやスウェーデンにも輸出されていた。これからの寒い時期に好んで飲まれているハイアルコールビール「ボック」は「アインベック」がミュンヘンで訛ったものともいわれている。1794年にすべての市民醸造所が市営醸造所として統合され、のちに株式会社化され現在に至る。
「Ainpöckisch Bier」は伝統的なレシピで造られたボックビールだ。ホップのグラッシーな苦さとアルコールの温かさが舌の上にどっしりと残り、飲み応えがある。パンチの強いこのビールは度重なる困難に向かうルターに活力を与えたに違いない。