1978年 | 神奈川県茅ケ崎市生まれ |
2000年 | 日本工学院専門学校 マルチメディアアート科卒業 |
2003年 | ヴィブラフォンの演奏を始める |
2008年 | 渡独。ベルリンを拠点に作曲、演奏活動を展開 |
朝霧のかかる森の中で、生命の息吹にそっと耳を澄まして聞き入る……ヴィブラフォンとは、そんな光景を想起させる楽器。藤田正嘉さんの音楽を聴いてそう感じた。聞けば、夜や霧、山、鳥といった自然が、彼の音楽の根底にあるという。自分の世界観を表現することに長けた音楽家だ。
藤田さんは長年、バンドのドラマーとして音楽に携わってきた。しかし、それだけでは「自分の音が作れない」と行き詰まりを感じていた20代初めの頃、あるライブでヴィブラフォンの演奏を聴き、「メチャメチャ格好いい」と衝撃を受けた。もともとこの楽器の独特の音色に憧れを抱いていたから、後はもう運命の導きに従うのみ。早速、その演奏者に声を掛け、レッスンを受けることになった。
環境を大きく変えることへの抵抗がないと自己分析する通り、高校卒業後、雷に打たれたかのように一念発起し、映像作家を目指して専門学校に通ったこともある。しかし、やはり自分には向いていないと感じ、音楽に戻った。彼の行き着くべきところは映像でもドラムでもなく、ヴィブラフォンだったのだ。「長い人生、どこで勝負すべきかを考えた時、この楽器には一生掛けてやる価値があると思った」。紆余曲折は、進むべき道を見出すのに必要な過程だった。
もっとも、始めた当初は手探り状態。音を鳴らしてコンピューターで編集するなど、独自の手法で楽器に慣れ親しんでいった。ただ、その頃の意識はまだ「自分は本物のヴィブラフォニストではない」というもの。プロ意識が芽生えたのは、「音楽に対する懐が深い」と感じるドイツで、音楽仲間に恵まれて楽器と本気で向き合ってきたからに違いない。
最近は楽器自体とその演奏にはまっていて、まだ歴史の浅いこの楽器の可能性を探りたいと考えている。そのために、「世界観を表現するだけでなく、音大生並みに猛練習をしてもっと技術を高め、自分の音楽に説得力を持たせたい」と語る藤田さん。その想いは、ヴィブラフォンから奏でられる共振音のように広がっていく。
(編集部:林 康子)
2010年11月、ヤン・イェリネックと共にポーランドで行ったコンサート
今年4月に開催した東日本大震災の復興支援を願う
「Brücke」のチャリティー・コンサート
el fog名義で出した2枚目のCDジャケット
エレクトロニカやタブと呼ばれる電子音楽が好きで、アコースティックな音や、レコードやテープの質感とコンピューターを使ったデジタル音楽の融合を試みてきた藤田さん。ヴィブラフォンの世界に没頭する現在は、アコースティックのソロ・アルバムをレコーディング中。東日本大震災後は、ベルリン在住のほかのアーティストたちと共に支援団体「Brücke」立ち上げ、被災地支援や復興状況を国外に伝えることを目的にチャリティー活動も開催している。
公演情報
ポルトガル人アーティストMariana CalóとFranciscoQueimadelaによる展覧会のクロージング・セレモニーの枠内で開かれるコンサート
12月11日(日) Open 19:00 / Start 20:00
出演:藤田正嘉、Will Samson
場所:Altes Finanzamt, Schönstedtstr.7, 12043 Berlin
藤田さんのHP:http://masayoshifujita.com
BrückeのHP:http://bruecke.jp