「C/O ベルリン」は、ベルリンの写真シーンをリードする重要な展示施設だ。以前はミッテ地区の旧王立郵便局が展示場に使われていて、そこの雰囲気が大好きだったが、2014年にツォー駅前のアメリカ・ハウスに舞台を移してからも注目すべき展覧会をしばしば行っている。
C/O ベルリンが構えるアメリカ・ハウスの外観
気になっていた2つの展示が11月末で終わるというので、足を運んでみた。1階の「No Photos on the Dance Floor!」は、1989年から現在までのベルリンのクラブシーンを写真や映像、当時のフライヤーなどで回顧したもの。このシーンに疎い私でも、写真を見ながら、2000年代初頭にはまだ街に漂っていた混沌の気配や、アルコールとアンモニア臭とが入り混じったような退廃の匂いの記憶が蘇ってきた。
C/Oベルリンの前に飾られた展覧会のポスター
上階はロバート・フランクの写真展「Unseen」。ちょうど60年前の1959年に発表した写真集『The Americans』で特に知られる人だ。1924年にスイスのチューリヒで生まれたユダヤ系のフランクは、1947年に貨物船で初めてニューヨークに渡る。今回の展覧会では、彼がまだ欧州との間を行き来していた頃、スイスの州民集会や、パリやロンドン、スペインで撮った初期の知られざる作品も収められていた。
男性の姿しかない州民集会の様子からは、フランクが育った保守的な社会風土が垣間見える。やがて彼はグッゲンハイム財団の奨学金を得て、50年代半ばに「自由の国」アメリカを車で縦断する旅に出るのである。『The Americans』の写真は今見ても新鮮だ。まだ公民権運動が始まる前、さまざまな人種を乗せたバスの窓や、ユダヤ教の祭日「ヨム・キプール」の情景……。ジャーナリスティックな説明調の切り口ではなく、街角や時代の気配が鋭い嗅覚で捉えられている。展覧会の説明によれば、彼の写真は「物語とドキュメンタリーの視点、写真によるロードムービーの間を揺れ動く」。
作品を見ながら、自分が立つアメリカ・ハウスの歩みとも重なってくる。『The Americans』が発表された同時期の1957年、西ベルリンの中心地に当時最重要の同盟国だったアメリカの文化センターとして建てられた。ベトナム戦争時に建物が攻撃を受けることもあったが、1963年のケネディ大統領の有名な演説に代表されるように、アメリカと(西)ベルリンは常に密な関係で結ばれていた。しかし、ベルリンっ子に愛されたオバマ大統領とは対照的に、就任してまもなく3年が経つトランプ大統領は、いまだドイツの首都を訪問していないという異常な状況が続いている。
「私は心の内を見ようとしていつも外を見ているが、本当の真実などどこにもないのかもしれない。そこにあるもののほかは。そしてそれは常に変化している」とフランクは語った。彼の写真を見ていると、多少ブレてもアングルが普通でなくても、変わり続ける人や街をもっとカメラで捉えたい気持ちが自分自身にも湧いてくる。この写真界の巨匠は、展覧会オープニング数日前の9月9日、94歳で死去した。
シー/オー・ベルリン
C/O Berlin
ツォー駅前にある写真専門の展示施設。2000年にシュテファン・エアフルトら3人のアーティストによって設立された。セバスチャン・サルガド、ヴィム・ヴェンダースら著名な作家の展覧会を企画するのみならず、若者向けのワークショップや教育プログラムにも力を入れている。入場料は10ユーロ(割引6ユーロ)。居心地のいいカフェも併設。
オープン:月曜〜日曜11:00〜20:00
住所:Hardenbergstr. 22-24, 10623 Berlin
電話番号:030-284441662
URL:www.co-berlin.org
写真博物館
Museum für Fotografie
やはりツォー駅裏手にある写真博物館は、プロイセン文化財団が運営するミュージアム。1909年に将校集会所として建てられた広々としたスペースの中に、ベルリン出身の世界的写真家ヘルムート・ニュートンのエロティックな写真が常設展示されている。特別展も定期的に開催される。入場料は10ユーロ(割引5ユーロ)。
オープン:11:00〜19:00 ※木曜は20:00まで、月曜休館
住所:Jebensstr. 2, 10623 Berlin
電話番号:030-266424242
URL: www.smb.museum