コロナ禍により人の往来が途絶えた2020年、ベルリンの長年の未完成案件だった二つの巨大な交通プロジェクトがひっそりと完成の時を迎えた。一つは10月末にオープンしたベルリン・ブランデンブルク国際空港。そしてもう一つが、12月4日に全線開通した地下鉄U5である。現状を考慮して公のセレモニーは行われないが、開通初日に試乗する機会があった。
丸みを帯びた柱が特徴的なU5の赤の市庁舎駅
アレクサンダー広場駅の地下ホームに行くと、真新しいU5の電車が向こうからやって来た。これまではこの駅が終点だったが、行き先に記されているのはHauptbahnhof(中央駅)。ここから中央駅まで1本の線で結ばれたのだと実感が湧いてくる。
U5の延長工事の最初の起工式が、ヘルムート・コール首相(当時)によって行われたのは遥か前の1995年。しかし、ベルリン市の財政難により2002年に工事は一旦ストップしてしまう。ベルリン市はそこで中央駅からブランデンブルク門駅までの部分開業を目指し、2009年にその1.8キロの区間が開通する。2010年に二度目の起工式が行われ、当初の予定から3年遅れで今回全線が完成。結果的に、四半世紀に及ぶプロジェクトとなった。
二つの地下鉄が交差するウンター・デン・リンデン駅
さて、アレクサンダー広場駅から乗って最初に着くのが、ローテス・ラートハウス(赤の市庁舎)駅。黒い壁と白い天井のコントラスト、そして丸みを帯びた柱が特徴的だ。駅建設のためこの地下を掘った際、中世の時代の市庁舎の遺構が発掘された。建築家のオリヴァー・コリニョンは、ゴシック様式の市庁舎のアーチ天井をイメージしてこの駅を設計したという。いずれ、構内に残る中世の遺構をガラス越しに眺められるようになる予定だ。地上に上がると、現在の赤の市庁舎が目の前に立ちはだかり、見慣れた建物との新鮮な遭遇が待っていた。
次のムゼウムスインゼル駅は未完成のため、現在は通過するが、天井の鮮やかなブルーが視界に入り、一瞬車窓が華やぐ。やがて電車はウンター・デン・リンデン駅に滑り込んだ。南北を走るU6との新たな乗換駅となるため、ゆったりとした空間が確保されている。市内でも最長の一つというエスカレーターを上りながら、地元紙の記事にあった「地下のカテドラル」という表現が脳裏に浮かんだ。
そして新線の終着駅となるブランデンブルク門駅へ。2009年の開業時から、この場所の歴史的意味を考慮して構内には広告が一切ない。代わりに、18世紀末から20世紀末に至るブランデンブルク門の起伏に富んだ歴史がパネルで紹介されている。
ここから地下鉄はかつての壁の下をくぐり抜けて旧西側のベルリン中央駅まで走る。2.2キロの新区間を完成させるのに、約5億2500万ユーロという破格の建設費を要したが、ドイツ再統一から30年の節目の年に完成したことを喜びたい。ベルリン観光の新たな足ともなろう。2021年、人々が再び自由にベルリンを訪れることのできる日がやって来ますように。
地下鉄U5
U-Bahnlinie 5
U5の歴史は建設が始まった1927年にさかのぼる。1930年にアレクサンダー広場とフリードリヒスフェルデ間が完成。その後、東独時代の1970〜80年代にかけてヘーノウまで延長された。今回中央駅からヘーノウ間(22キロ、所要時間41分)の全線が開業したことにより、U7に次いでベルリンで2番目に長い地下鉄路線となった。また、全駅バリアフリーの路線はベルリン初となる。
URL:www.bvg.de
ムゼウムスインゼル駅
Bahnhof Museumsinsel
今回開業したU5の中で唯一未完成の駅(完成予定は2021年夏)。世界遺産の博物館島の窓口になることから、この駅名が付けられた。建築家シンケルが1815年にモーツァルトのオペラ「魔笛」のために書いた舞台美術が駅のデザインのモチーフになっており、星空を模した6662もの光が幻想的な雰囲気を作り出す。駅の東側出口は、やはり2021年オープン予定のフンボルト・フォーラム(旧ベルリン王宮)に直結する。