今年開館20周年を迎えたベルリン・ユダヤ博物館に、子どもを対象にした別館「ANOHA」(アノハ)が誕生した。何となく楽しい響きがする言葉だが、これはこの博物館のテーマ「Arche Noah」(ノアの箱舟)を組み合わせた造語だそう。10月の週末にオンライン予約が取れたので、友人家族を誘って出かけてみることにした。
ノアの箱舟がコンセプトになっているユダヤ博物館「アノハ」
ユダヤ博物館本館からリンデン通りを隔てた反対側に「アノハ」はあった。もともとは1960年代に建てられた花の屋内市場を改築して、博物館の教育施設に生まれ変わった。
セキュリティーチェックを受けて入場すると、荷物をロッカーに預け、靴も脱いで屋内用のソックスを履く。短いガイダンス映像を見ていると、ユダヤ教の律法であるモーセ五書の巻物(トーラー)が映し出された。ノアの箱舟の物語はユダヤ教とキリスト教に加えて、イスラム教の聖典であるコーランにも登場する。この三つの宗教を結びつけるものとしてこの物語が選ばれたようだ。
展示は七つのコーナーに仕切られ、正方形の空間の中心には巨大な木製の箱舟が置かれている。最初の部屋では、子どもたちがワインのコルクやCDの板などをリサイクルして作られた舟を長い水槽に浮かべ、洪水のシミュレーションを体験する。「乗船と餌やり」をテーマにした次の部屋では、餌に見立てたボールを上から管に落として遊ぶ。周囲にはゾウやカバ、ウマやワニなど、150種類もの動物のオブジェが並び、いずれもリサイクル品からアーティストたちが作った作品。サッカーボールやコップ、消防用ホースなど素材は多種多様で、その知恵と工夫に驚いてしまう。
もともとは花の屋内市場だったアノハの建物
巨大なヘビ、アナコンダを模した網状の中にもぐっていく遊具など、アスレチックの要素も取り入れられている。餌やりの後には、動物たちの排せつ行為をやはりボールを使って学ぶ部屋もあった。
ここまで見たところで、スタッフの女性が紙芝居風にノアの箱舟の物語を話して聞かせてくれる。遊びを通して、「人間と動物、自然がいかに共存していくか」という物語のテーマに目を向けさせるわけだ。
聖書の「創世記」ではノアが家族や動物たちと箱舟から出ると、生物を絶滅させるような大洪水は決して起こさないと神と契約し、その証として空に虹がかけられる。最後の部屋では虹を模したカラフルな紙に、子どもたちが「より良き世界」のためにアイデアを書きつづっていた。
入口に戻るとき、ロープにつるされたホッキョクグマとオラウータンの存在が目に留まった。絶滅に瀕しているこれらの動物を子どもたちがロープで引っ張ることで、こちら側に救い戻す願いが込められているそうだ。大洪水といえば、ドイツではこの夏に恐ろしい水害を経験した。ノアの箱舟という古くからの物語を通して、人間と動物、自然環境の共存という大きな主題を考えるためのメッセージが、随所にさりげなくちりばめられていた。
アノハ
ANOHA
2021年6月にオープンした、ベルリン・ユダヤ博物館別館の子ども博物館。館内では時間指定で集まったグループ単位で動き、10分たつと次の部屋に移る合図の音楽が鳴り、約90分で一巡する流れになっている。ホームページにて7日前から時間指定の無料チケットを予約可能。大人のみの参加は、ガイドツアーに申し込む必要がある。
オープン:火~金9:00~13:00、土日10:30~16:00
住所:Fromet-und-Moses-Mendelssohn-Platz 1, 10969 Berlin
電話番号:030-25993300
URL:www.anoha.de
ベルリン・ユダヤ博物館
Jüdisches Museum Berlin
ドイツにおけるユダヤ人の歴史と生活、文化をテーマにした博物館。ダニエル・リベスキンド設計による斬新な建築の魅力もあり、2001年のオープン以来、ベルリンの数あるミュージアムの中でも多くの来場者数を誇る。昨年、常設展の大規模なリニューアルが行われたばかり。最寄りの地下鉄Hallesches Tor駅からは徒歩10分ほど。
オープン:月~日10:00~19:00
住所:Lindenstr. 9-14, 10969 Berlin
電話番号:030-25993300
URL:www.jmberlin.de