ジャパンダイジェスト

3年ぶりのオープンデー 連邦首相府をひとめぐり

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8月20日と21日、ベルリンにある連邦政府の省庁を一般公開するイベントが「民主主義が招く」と題して開催された。毎年当たり前だと思っていた行事だが、コロナ禍により3年ぶりの開催となると、重みが違ってくる。ショルツ新政権の誕生後は初ということもあり、息子と出かけてみることにした。

3年ぶりのオープンデーが行われた連邦首相府3年ぶりのオープンデーが行われた連邦首相府

私たちが向かったのは、中央駅からほど近い連邦首相府。このイベントで一番人気の場所だけに、荷物を預けて先に進むと、かなりの行列ができていた。ありがたいことに、小さな連れの姿に気づいた係員がこまねきして、行列をカットさせてくれた。セキュリティーチェックを受けてから敷地内に入る。

いくらかそっけない外観からベルリーナーに「洗濯機」(Waschmaschine)と呼ばれる首相府の前には、レッドカーペットが敷かれ、外国の首脳が訪問する際のセレモニーの様子を実感できるようになっている。近くには軍楽隊が演奏する際によく目にする、T字形の棒先に鈴を付けた楽器「トルコクレセント」が展示されていた。もともとはオスマン帝国に起源を持つ楽器で、これを持って行進するのはかなりの体力が求められそうだ。

中に入ると、グリーンを基調とした開放感のある空間が広がる。首相を囲んだ記念撮影でおなじみの階段を上がると、アデナウアー以降の歴代首相の肖像画が並ぶ。過去73年の間で8人だから、日本に比べるとだいぶ少ない。昨年末に退任したメルケル首相の肖像画が並ぶのはまだこれからだ。

首相府内にある記者会見場首相府内にある記者会見場

赤い内装の会議室を抜けると、そこが首脳会談後の記者会見が行われる場所。周りの人たちは笑顔で記念撮影をしていたが、私はその数日前にここで起きた出来事がまだ脳裏にあった。パレスチナ自治政府のアッバス議長が、会談後の記者会見で、「イスラエルはパレスチナの50の村で、50のホロコーストを行った」とホロコーストを相対化する発言をしたにもかかわらず、隣にいたショルツ首相はそれについて何も述べなかったのである。国内外で強い批判の声が上がった。

このオープンデーでは、官邸裏の広大な公園も自由に歩ける。非常時に使われるヘリコプターの運転室をのぞいてから、橋を渡って奥に広がる公園を散歩した。屋台でソーセージを食べてから、息子は普段は入れない緑の中を走り回り楽しそうだった。

しかし、ここでも「事件」が起きた。その翌日、この公園を訪れていた市民と交流をしていたショルツ首相の横で、2人の女性が突然上半身裸になり、ロシアからのガス禁輸を求めるデモを行ったのである。2人はすぐに取り押さえられた。

ロシアによるウクライナの侵略戦争が長期化しつつあるなか、きわめて困難なかじ取りが求められる首相の重責を思う。くれぐれも身の回りの安全は確保されてほしい。が、先のアッバス議長との会見後、ドイツの公共ラジオが首相を批判して述べたコメントをあえて引用したい。「ドイツには、目を覚まし、忘却しない首相が必要だ」。

インフォメーション

連邦政府のオープンデー
Tag der offenen Tür der Bundesregierung

毎年8月下旬の週末に行われる無料イベント。首相府のほか、外務省、財務省、防衛省など、今年は15の省庁が一般に公開された。内部見学だけでなく、大臣や著名人のトークショー、コンサート、展覧会など、家族で楽しめる催しが多く行われる。この9月4日には首相府の向かいに建つブンデスターク(連邦議会議事堂)のオープンデーが開催される。

URL:www.bundesregierung.de

連邦首相府
Bundeskanzleramt

アクセル・シュルテスの設計により2001年に完成した連邦首相の官邸。かつてこの近くにベルリンの壁があったことから、首相府とパウル・レーベ館(議員会館)、さらにシュプレー川を横切って議会図書館が向かい合うという、東西を結びつけるコンセプトで設計された。ベルリン中央駅、もしくはU55のブンデスターク駅が最寄りとなる。

住所:Willy-Brandt-Str. 1, 10557 Berlin
URL:www.bundeskanzler.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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