毎年10月3日のドイツ統一記念日は、「イン・デン・ミニスターゲルテン」という通りに面したドイツの州代表部が一般公開される。今年のこの日の夕刻も近い頃、家族で行ってみることにした。
ポツダム広場のSバーンの駅を上がって、エーベルト通りを北に歩くと、モダンな建築が集まるオフィス街のはざまに「ミニスターガルテン」(大臣の庭)という名の緑地帯が見えてきた。真ん中に大きなトランポリンが置かれ、子どもたちが飛び跳ねている。南側にはブドウの木が植えられており、前から気になっていた場所だ。
ミニスターガルテン(右)とヘッセン州代表部の建物
そもそもなぜこの場所が「大臣の庭」と呼ばれるのか。その理由は18世紀前半にさかのぼる。プロイセン王のフリードリヒ・ヴィルヘルム1世の時代、東側のヴィルヘルム通りに沿って華麗な貴族の館が次々と建てられた。現在のエーベルト通りとの間の敷地は、それらに付随する広大な緑地となった。
ドイツ帝国の時代になると、外務省や内務省など、重要な省庁がこの一帯に集中するようになる。宰相ビルマルクの官邸もここにあった。1904年の地図を見ると、現在のイン・デン・ミニスターゲルテンは外務省裏手の庭だったことが分かる。
今はシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、ザクセン州、ヘッセン州など、統一ドイツ16州のうち7州がこの通りに代表部を構えている。南のラインラント=プファルツ州代表部の前では、人々が陽気に特産のワインを立ち飲みしていた。私も屋台に並んだが、残念ながらちょうど売り切れ。気を取り直して建物の中に入る。
ラインラント=プファルツ州を選んだのは、屋上テラスからの眺めが素晴らしいと聞いたからだ。階段を登って屋上に出ると、突然空中庭園に浮かんだような眺望が待っていた。黄色に赤が混じる樹木の紅葉、対照的に灰色の石碑が無数に並ぶホロコースト記念碑。冷戦時代、ベルリンの壁の荒涼とした緩衝地帯だった場所だ。その向こうには32年前に統一記念式典が行われた連邦議会議事堂が見えた。
ラインラント=プファルツ州代表部の屋上テラスからの眺め
南側へ回ると、ポツダム広場のビル群が奥に広がる。その手前のフォス通りは、かつてヒトラーの巨大な新総統官邸が構えていた。1945年4月末、東から赤軍が迫るなか、ヒトラーが自殺した地下壕ごう跡は、イン・デン・ミニスターゲルテンの突き当たりの地点に位置する。屋上からのパノラマには、この100年もの間、無数の破壊と再生を繰り返してきた都市の記憶が、穏やかな空気の中に凝縮されていた。美しくはないかもしれないが、あのような時代は二度と繰り返してはならないという人々の願いと知性を積み重ねて生まれた風景という気がする。
下に降りて、ブランデンブルク州代表部の前に、再びワインの屋台を見つけた。ポーランドとの国境に近いワイナリーの出店だそうだ。こんな北方でもワインが造れるのかと思いながら、東も西も自由に往来できるようになった再統一を祝って、冷えた白ワインを口に含んだ。
ラインラント=プファルツ州代表部
Landesvertretung Rheinland-Pfalz Berlin
イン・デン・ミニスターゲルテンに建つラインラント=プファルツ州の代表部。1999年から2001年にかけて、シュトゥットガルトの建築事務所「ハインレ、ヴィッシャー&パートナー」の設計により生まれた。展覧会やコンサートが行われることもある。屋上テラスは、毎年10月3日の統一記念日にのみ一般に公開される。
オープン:月~日10:00~18:00
住所:In den Ministergärten 6, 10117 Berlin
電話番号:030-3743460
URL:https://landesvertretung.rlp.de
ミニスターガルテン
Ministergarten
エーベルト通りとイン・デン・ミニスターゲルテンの角にある4000平方メートルの庭園。2007年に造園家ベルナルト&ザトラーが設計して生まれた。15本のポプラに加えて、ブドウの木も植えられている。隣接したヘッセン州代表部の夏祭りや野外展示などのイベントに使われるほか、毎年10月にはジャズフェスティバルが開催される。
住所:Ebertstr. 16, 10117 Berlin
URL:https://ministergarten.berlin