ベルリンから東ドイツ時代の名残がまた一つ姿を消した。ファンが親しみを込めて「コーラ缶」(Coladose)と呼ぶSバーンの485形。その最終運行の電車に乗れるというニュースを知り、息子を連れて出かけることにした。
11月12日の14時半頃、Sバーン環状線のボイセル通り駅に行くと、ホームの先端にカメラを構えた鉄道ファンの姿があった。しばらく待っていると、環状線の時計回りの線(S41)に485形電車が現れた。正面に「1988-2023」と書かれた特製のヘッドマークを付けており、ファンが一斉にカメラを構える。ドアが開くと、超満員だ。だが乗らないわけにはいかない。少しでも空きスペースがある車両を見つけて、息子と乗り込んだ。
シェーネヴァイデ駅に並んだ2編成の485形最終列車
二つ先のヴェディング駅に停車中、向かいのホームに同じ485形が反対方向からやって来た。後で知ったのだが、14時頃に485形の2編成の電車が東のシェーネヴァイデ駅を時間差で発車し、環状線の時計回りと反時計回り(S42)にそれぞれ分かれ、このボイセル通り駅で交差する予定だったらしい。
対面する場所がずれたとはいえ、引退する2編成の列車が遭遇し、ファンは喜んでいる。私もホームに出て写真を撮ろうとするが、息子は車内から「パパ、行かないで」と心配そうな顔をして言う。確かに、うっかりドアが閉まっては大変だし、最終列車とそんな別れ方をしたくない。
この485形電車は1980年代に東ドイツで開発された。1988年に最初の列車が定期運行を開始したが、わずか1年後にベルリンの壁が崩壊。そのため、当初の予定の約半分の170両しか製造されなかったという。
うなるような独特のモーター音を響かせ、シェーンハウザーアレー、オストクロイツなど旧東の駅に最後のあいさつをするかのように停車していく。誰でも乗れる定期列車として運行しているので、その混雑ぶりにびっくりした表情で乗り込んでくる乗客も。ホームの電光掲示板には、「Machs gut(元気で)BR 485!」という粋な表示が流れていた。
最終列車の電光掲示板に表示された「Machs gut」の文字
環状線を離れて、南東の線に入る。いよいよ終点が迫った。運転手から「私にとっても皆様にとっても、この素晴らしい485形でご一緒するのは今日が最後です」という味わい深いアナウンスが流れ、大勢の人々に迎えられて15時21分、シェーネヴァイデ駅に到着した。最後の勇姿を記録に留めようとファンがホームに割拠したが、皆さんマナーはよく、怒号が飛ぶことがないのは助かった。数分後、別方向を走ってきた485形が到着。二つの車両が仲良く並び、人々から歓声が上がった。
壁崩壊により計画の半数しか製造されなかった反面、2010年のSバーンの整備不良問題により、当初の予定より長く酷使されることになったという、何ともベルリンらしい歴史を歩んできた485形。そんな時代を知らない息子と「乗り鉄」を楽しんだ、日曜の午後だった。
Sバーン485形
S-Bahn Baureihe 485
1970~80年代に東ドイツ国鉄により開発・製造された電車。アルミニウムの車体や近代的なブレーキシステムを備えた最新鋭の車両だった。当初は赤色だったことから「コーラ缶」という愛称が定着。12月10日のダイヤ改正により最後の22両が公式に引退するが、うち1両はベルリンのドイツ技術博物館に寄贈され、常設展示される予定だ。
クリスマス列車2023
Weihnachtszug 2023
ベルリンのS バーンにクリスマス列車が帰ってくる! 歴史的な車両のメンテナンスの問題から2008年末を最後に運行停止していたベルリンのクリスマス列車が、15年ぶりに復活することになった。アドベントの季節、クリスマスのデコレーションをした特別列車が子どもたちの夢を乗せて走る。有料、要事前予約。詳細は以下のサイトにて。
URL:www.hisb.de