公園鉄道の「中央駅」で出会ったかわいらしい鉄道員たち
ベルリンの中心部から東のエルクナー(Erkner)行きのSバーンに揺られること約30分、ヴュールハイデ駅で降りると、跨線橋を隔てた向こうにもう1つ小さなホームが見えた。
「ヴュールハイデ公園鉄道」と書かれたホームに立って待っていると、やがてうなるようなディーゼル音に導かれて一編成の車両が入線してきた。赤、青、紫のカラフルな客車。線路の幅は隣のSバーンの半分に満たない、わずか600ミリほど。おとぎの国に連れて行ってくれそうなかわいらしい車体だが、小さいのは列車だけではなかった。駅員も車掌も、ほとんどが皆あどけない顔立ちをした10代の子どもたちなのである。
ゴトンと音を立てて木造の客車が動き出すと、列車は森の中に入っていく。大きな音を立てて走る割に、時速は15キロほどののんびりしたものだ。車内販売の少年がコーヒーやお菓子を載せたカートを引いてやって来たかと思うと、隣の席では小学6年生ぐらいの車掌さんが、必死に業務メモを取っている。列車が駅に着く度に、慌ててホームに出て行っては乗降確認も怠らない。その様子を眺めていると、なんとも微笑ましい気分になった。
停車中の蒸気機関車。
公園鉄道は3台の蒸気機関車と4台のディーゼル機関車を保有
ヴュールハイデ公園鉄道は、広大な公園内を走る全長7.5キロの狭軌鉄道。何と言ってもその存在をユニークなものにしているのは、ほとんどの業務が11歳から18歳までの青少年によって運営されていることだろう。「子どもの頃から勉強と実務を同時に学べるように」という子ども鉄道の考えはソ連で生まれ、1930年代にはすでにいくつもの大都市で運行が営まれていたという。戦後、この理念は同盟国である東ドイツの少年少女組織「ピオニーア団」にも受け継がれ、ベルリンを始め東独全土で12のピオニーア鉄道が走っていた。東西統一後、廃止された鉄道もあったが、ベルリンの場合は存続を求める声が強く、公園鉄道と名前を変えて今に至るまで走り続けている。
現在ここに「勤務」しているのは、約160人の一般の青少年たち。年齢によって役割分担と受講コースが決まっている。「中央駅」で降りて、彼らの仕事ぶりを観察してみた。ホームの先端に電話台があり、列車の到着が近付くと監視役の12歳ぐらいの男の子が連絡を受ける。それを隣で伝え聞いていた、やはり同年代の女の子がハンドルをぐるぐる回して踏切の遮断機を降ろす。若い声の車内アナウンスが流れ、列車が入線。さすがに経験が必要とされる駅長や運転手といった業務は、いくつもの過程を経た最高年齢の18歳の青年が担っていた。どのコースもかつてここで勤務経験がある大人たちから教えを受けるという。印象に残ったのは、誰もが嬉々としていて、それぞれの役割に責任を持って取り組んでいるように見えたことだ。将来、鉄道員になるとは限らないのに、こんな経験を積める彼らが、ちょっぴりうらやましかった。
ヴュールハイデ公園は想像以上に広く、モデルパークやFEZ(Information参照)まで含めると、丸1日は楽しめる。列車が再び走り始める春になったら、小さな鉄道員たちに会いに出掛けてみてはどうだろう。
ヴュールハイデ公園鉄道
Parkeisenbahn Wuhlheide
運賃は往復4ユーロ(子ども2.50ユーロ)。Eichgestell駅から徒歩5分にあるFreizeit- und Erholungszentrum (FEZ)-Berlinは、かつてのピオニーア団の施設を改造した、子ども、若者、家族のためのレジャー施設としては欧州最大規模。野外劇場やプール、レストランなどを備え、様々なイベントが定期的に開催される。
営業: 毎年3月末~10月末までの週末。ニコラウスの日の前の週末(12月4・5日)にはクリスマス・スペシャル運行も。
住所: An der Wuhlheide 189, 12459 Berlin
TEL:(030)53 89 26 60
www.parkeisenbahn.de
モデルパークベルリン・ブランデンブルク
Modellpark Berlin-Brandenburg
2007年にオープンした、ヴュールハイデ公園内にある「ベルリン唯一のミニチュア公園」。戦勝記念塔からライヒスターク、ラインスベルク城に至るまで、ベルリン・ブランデンブルク地方を代表する約60の建築物を模型で再現。どれも思わず見入ってしまうほど精巧に作られており、楽しい仕掛けも施されている。
開園:4月5日~10月31日の毎日9:00~19:00
入場料:4ユーロ(子ども2ユーロ)
住所:Eichgestell 4, 12459 Berlin
TEL:(030)473 784 20
www.modellparkberlin.de