建設当時はルネサンス様式、
後にバロック様式に改造された「狩りの宮殿」
11月のある日曜日の朝、グルーネヴァルトの森に行ってみようと思い立った。その昔、狩りを愛好するブランデンブルク選帝侯が建てさせた「狩りの宮殿」が、森の中の湖のほとりにあるという。人里離れた森の中で、狩りに興じる孤独な権力者の姿にはどこか惹かれるものがあり、一度訪ねてみたかったのだ。
115番のバスに乗ってローゼネックに差し掛かる辺りから、周囲の風景が変わってくる。ウィ-ン風のカフェハウス、高級老人ホーム、意匠を凝らした豪邸などが並び、さすがに古くからの高級住宅街だけのことはある。クレイ・アレーとケーニギン・ルイーゼ通りの角のバス停を降り、すがすがしい気分で森の中を歩いて行くと、頻繁に家族連れやジョギングする人とすれ違った。湖のほとりに出ると、ソーセージの屋台まで立っていて賑わっている。11月半ばにしては暖かい日だったにせよ、私の頭の中にあった静寂の中に佇むお城のイメージとは少し違うようだ。
犬とその愛好家のパラダイス、グルーネヴァルト湖
門を抜け、中庭に入ると、真っ白な宮殿が現れた。レミーゼと呼ばれる馬車置き場を囲む建物には鹿の角が均等に並び、ここがかつて狩りの館だったことを偲ばせる。ヤークトシュロスこと「狩りの宮殿」は1542年、選帝侯ヨアヒム2世の命によって造られた。ベルリンに今も残るホーエンツォレルン家の王宮としては最古のものである。宮殿の当初の名前は、入り口の上の碑文に残されている通り、“Zum grünen Wald”(緑の森へ)。それは後に周辺の森「グルーネヴァルト」の名に受け継がれた。ちなみに選帝侯は、ベルリン市内の王宮から西に15キロほど離れたこの狩りの宮殿へと続く道を作らせたが、これは後にベルリン屈指の目抜き通り“Kurfürstendamm”(「選帝侯の道」、通称「クーダム」)へと発展することになる。当時のベルリンは辺境の一地方都市だったとはいえ、選帝侯は時々この離宮を訪れては湖を眺め、しばし日常の雑事を忘れたのだろうか。幸い、狩りの宮殿は戦災を受けることもなく、湖への眺めも当時とほとんど変わっていないはず。私の心もしばし過去へとさすらう・・・・・・。
ところが、グルーネヴァルト湖のほとりの散歩道を歩き始めると、そんな気分は一気に吹き飛んだ。決して広くない歩道にしては、犬を引き連れている人の割合が尋常ではないのだ。あちこちからワンワン、キャンキャンと鳴き声が響き渡り、私の周りでは犬同士の追いかけっこが始まった。しばらく歩くと、岸辺が見えてきて、犬が次々と勢いよく湖に飛び込んでいる。犬嫌いの人が何も知らずにここに散歩に来たら、恐れおののいてしまうかもしれない。が、犬たちはもちろん、それを眺める飼い主たちの楽しそうな表情といったら・・・・・・。自宅に戻り、手元のガイドを読んで納得した。「犬を公に放し飼いできる区域としては、ベルリンで最も人気がある。犬とその飼い主がこれほどはしゃぎ、泳ぎ、遊べる場所は、首都の中ではほかにない」。
ところで、ツォー駅からX10番のバスに乗れば、クーダムを通って、狩りの館へと連れて行ってくれる。狩りに出向く選帝侯の気分が味わえるかも。
グルーネヴァルト・狩りの宮殿
Jagdschloss Grunewald
1階はルネサンス時代の装飾がよく保存され、2階は15~18世紀のドイツとオランダの絵画コレクションを展示(特にクラナッハが有名)。12月4、5日(11:00~19:00)は、宮殿の中庭でメルヘンチックなクリスマスマーケットが開催される。2011年4月から約2カ月間は、駐車場の拡張工事のため閉鎖される予定。
開館:4月~10月は月曜を除く10:00~18:00。
11月~3月は土日祝の11、13、15時のガイドツアーでのみ入場可。
住所: Hüttenweg 100, 14193 Berlin
TEL:(030)81 33 597
www.spsg.de
ブリュッケ美術館
Brücke-Museum
グルーネヴァルトを訪れたら、ぜひ立ち寄りたい美術館。1905年に結成されたドイツ表現主義のグループ「ブリュッケ」に的を絞った世界唯一の美術館で、キルヒナー、ノルデ、ヘッケルなどの充実したコレクションをゆったりとしたスペースの中で鑑賞できる。「ブリュッケ」とその周辺にまで幅を広げた特別展も随時開催。
開館:火曜を除く11:00~17:00
住所:Bussardsteig 9, 14195 Berlin
TEL:(030)831 20 29
www.bruecke-museum.de