現在私が住んでいるのは、ヴィルマースドルフという西側の地区。地下鉄の駅やスーパーマーケットが近くにあり、生活する上では便利な住宅街なのだが、ときどきふと6年間住んだクロイツベルクの、特に夜の雰囲気が懐かしくなる。
氷点下に冷え込んだ週末の夜、家でぬくぬく過ごすのも悪くないとは思いつつ、それでも敢えて重装備をして地下鉄に飛び乗った。
地下鉄U1のシュレジア門駅(Schlesisches Tor)。ベルリンがまだ市壁によって囲まれていた時代、ここにシュレジア地方(現在はポーランド領)に続く門が建っていたことからこの地名が残っている。元々労働者街として発達し、壁があった1980年代までは西ベルリンの最東端に位置したことから、場末の雰囲気を漂わせた、うら寂しい街だったと聞く。
ユーゲント・シュティールの美しい装飾が残るシュレジア門駅を出て、現在はカフェやバー、クラブが多いことで知られるシュレージッシェ通りを歩いてみた。トルコ系のケバブ屋が2軒、競うように並ぶ先に行くと、インド料理屋、ピンク色の妖しい照明が目を引くバー、バックパッカー用の安宿など、店の種類は多彩で不揃いだ。馴染みだったカフェがいつの間にかベトナム料理店に変わるなど、入れ替わりもちらほら目に付いた。
“Zur fetten Ecke”(ふとっちょの角)という店の横を通る。いわゆるEckkneipe(角の飲み屋)と呼ばれる、クロイツベルク地区に典型的な造りの飲み屋で、まるで1970年代のヒットソング『クロイツベルクの夜(Kreuzberger Nächte)』に登場しそうな店である。大いに惹かれたが、中を覗くと煙草の煙が漂っていたので、残念ながらパス。
結局この夜は、駅の近くのバー「ヴェンデル」で飲んだ。鉄骨がむき出しの天井、半分グラフィティのようにも見える壁絵、ソファもテーブルも統一感がないのだが、それでも居心地がいいと感じられるから不思議だ。入り口に近い席しか空いていなかったので、煙草を吸う人が外に出入りする度に、寒い風がビュービュー入ってくる。奥ではDJがレコードを回し始めた。
バー「ヴェンデル」の内装。グラフィティのような壁絵が目を引く
お酒が飲めないので、普段こういう場所にはめったに連れて来ない妻だが、「大音量で音楽がかかって、人もこんなにいるのに、この騒がしさには嫌な感じがない。酒に任せ、溺れることがないというか、地に足を付けて飲む様子が大人という感じね」と会社員時代に日本の居酒屋で感じたことと比べて、こんな感想を口にした。
数日後、シュレジア門駅の近くに10年以上住む友人のホルガーに、この界隈の魅力を聞いてみた。「そうだねえ。このキーツのいいところは、インターナショナルで家賃が安いところかなあ。でも、最近は観光客が増えて、家賃も上がる一方だし、もう少し静かなエリアに引っ越していいかなとも時々思うよ」との答え。
時代や人の流れに逆らえないのはこのエリアも例外ではないが、そこに集う人がいる限り、クロイツベルクの夜は続くのだ。
入り口の前には、煙草を吸う人の姿が。
クロイツベルクでも禁煙の店が増えてきた
ヴェンデル
Wendel
シュレジア門駅近くのバー。アートスペースとしても力を入れており、地元のアーティストによる内部展示は定期的に変わる。月曜はジャズやヒップホップ、週末はDJが音楽を彩る(詳細は下記HP参照)。ドリンクの種類は豊富かつ安価で、ビールも含めオーガニックドリンクが多いのが嬉しいところ。簡単な軽食も用意されている。
オープン: 月~金16:00~、土日14:00~
住所: Schlesische Str. 42, 10997 Berlin
電話番号: 030-6107 4029
URL: www.wendel.nstp.de
チャレット
Chalet
少し前までHeinz Minkiという名で知られていたお店を、昨年夏、伝説な“Bar25”のクルーが新しいクラブとしてオープンさせた。1859年に税関として造られた煉瓦の建物 は、1800年頃をイメージした内装に模様替えされ、サロンの雰囲気を併せ持つ。音楽は主にテクノだが、ジャンルを限定せず年齢層も多様とか。背後には大きな庭があり、夏はビアガーデンの雰囲気も楽しめる。
オープン: 木金土の夜(詳細は下記HP参照)
住所: Vordem Schlesischen Tor 3, 10997 Berlin
電話番号: 030-6107 4029
URL: www.chalet-berlin.de