ベルリンの郊外の地図を眺めていて、「オールド」を意味する「アルト」が前に付いた地名を目にすると、古いもの好きの私はそれだけで興味を惹かれる。盛夏のある土曜日、今年初頭にご紹介したテーゲル湖の最寄駅(Alt-Tegel)からアルト・リュバース(Alt-Lübars)へ向かってみることにした。
今も農村生活が息づくアルト・リュバース
地下鉄U6の終点駅アルト・テーゲルから222番のバスに乗り、2階建て車両の最前列に陣取った。徐々に緑の色が濃くなる風景を楽しみながら、バスは北東ほぼ一直線に進む。突然馬の姿が目に入ったかと思うと、終点のアルト・リュバースに到着した。
リュバースの名が文書に初めて登場するのは1247年のこと。都市ベルリンより10年ほど若いに過ぎない。同じ「アルト」が付いても、町として賑わっているアルト・テーゲルとは完全な別世界で、こちらは正真正銘の農村だ。1989年まで、ここから400メートルほどの距離にベルリンの壁がそびえていたというが、そんな歴史とは無縁のように、今も昔ものどかな風景が広がっている。
村の中心に、1790年に造られたバロック様式のかわいらしい教会があり、その周りには三角屋根の古い農家、消防署、古くからの酒場など、18~19世紀末にかけて建てられた家々が今も多く残る。村の規模も雰囲気も、中世の時代からそう大きく変わっていないのではないかと思わせてくれる、ベルリンでも希有な場所だ。
20分毎に出ているバスでそのまま市内に戻るのはもったいない天気だったので、BVG(ベルリン交通局)のパンフレットに紹介されていたハイキングコースを歩いてみることにした。アルト・リュバースの少し北側にTegeler-Fließという小さな川が流れ、9キロ先のテーゲル湖に注いでいる。この流れに大まかに沿ったコースだ。
馬が放牧された牧草地を過ぎ、太陽を浴びながら砂地の道を歩いていくと、やがて木道になる。当然こちらの方が歩きやすいし、昔歩いた尾瀬の木道を思い出す。木陰に入り、気持ちいい涼風に包まれた。
野生のシカが猛スピードで目の前を横切った瞬間
Hermsdorfer Seeという湖が奥に見えた時のことだ。絵画的な風景だなと思ってカメラを取り出した瞬間、目の前を何者かが猛スピードで通り過ぎた。一瞬の出来事で唖然とするほかなかったが、野生のシカだった。
このテーゲル川、元々は氷河期に形成された北部のバルニム台地からの雪解け水が、谷底に流れていく過程で生まれたもの。時には湖に合流するが、その流れ方はいかにも自然に身を任せているうちに出来上がったという感じに、蛇行を繰り返す。樹木や植物の知識があれば、さらに楽しめそうだ。
小さな流れはやがて大きなテーゲル湖に注ぐ。台地の上にあるアルト・リュバースに対して、テーゲル湖はウアシュトロームタール(Urstromtal)という谷底に位置し、そこから南のベルリン市内はほぼこの谷底にすっぽり入る。
アルト・リュバースからテーゲル湖まで徒歩3時間ほど。本物の村から氷河の雪解け水まで、都市ベルリンが生まれる前の悠久の時間に思いを向けさせてくれる散歩道だった。
バルニムの村の散歩道
Barnimer Dör ferweg
バルニム台地の古くからの村々を結ぶベルリン北端の散歩コース。今回ご紹介したアルト・リュバース−テーゲル湖間以外にも、東のブランケンフェルデ、カーロウ、アーレンスフェルデへと続き、全長31キロに及ぶ。ベルリン北部では著名なハイキングコースで、牧歌的な散策を楽しめる。自転車で回るのもお勧めだ。
アルター・ドルフクルーク
Alter Dorfkrug
アルト・リュバースの中心にある古くからのレストラン。この村に酒場があった記録は1375年にさかのぼるそうで、1896年に建てられた現在の建物は、美しいダンスホールを含め、その保存状態の良さで知られる。メニューは伝統的なドイツ料理が中心。夏の間は裏手の庭がビアガーデンとして開放され、内外の人々の憩いの場となる。
営業:木〜土12:00〜22:00
住所:Alt-Lübars 8, 13469 Berlin
電話番号:030-922 10 230
URL:www.gasthof-alter-dorfkrug.de