ジャパンダイジェスト

ミュッゲルトゥルムの展望台へ

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ベルリンの広域図を見ると、3つの大きな湖が目に付く。前回ご紹介した西のヴァンゼー、北のテーゲラーゼー、そして東のミュッゲルゼーだ。西側に住んでいる私は、どうしても行動範囲が西に限られる傾向があるが、たまには東の郊外にも足を延ばしてみたい。そこで、少し前に知人から紹介されたミュッゲルゼーの南の山上にあるミュッゲルトゥルムという塔に上ってみようと思い立った。HP を開いてみると、白い塔の周りにはモダンなデザインのレストランも併設されているようだ。優雅な雰囲気の中で絶景を味わえるに違いない。

晴れた日の平日、S バーンでシェーネヴァイデ駅まで行き、そこからトラムの67番、さらにX69というバスを乗り継いで約1 時間、リューベツァールという森の中のバス停に到着した。ここから北に歩けば湖はすぐだが、私たちは南側の森の遊歩道へ入る。前の方には学校の課外活動で訪れている小学生たちが木の遊具で元気に遊んでいた。さらに進むと、トイフェルスゼーという小さな湖の脇を通る。もともとは氷河期に雪解け水がたまってできた湿原だそう。ここまでは気持ちのいいハイキングコースだったが、やがて目の前に長い階段がそびえた。さすがにベビーカー。ちょうど階段を降りてきたご婦人に聞いてみたら、「遠回りにはなるが、右の道を行けば車道につながる」とのこと。平坦なベルリンの標高88メートルの山とはいえ、ベビーカーを押しながら坂を上ると汗が噴き出してくる。

期待を胸に頂上の敷地に入ったが、目の前にあるのはただの工事現場だった。おしゃれなレストランの代わりに、おんぼろのインビス(軽食店)があり、休憩中の強面のお兄さんたちがこちらを珍しそうに見ている。工事現場を一般公開するのはベルリンではよくあることだが、それにしてもHPで完成予想図を堂々と使うとは何とも紛らわしいではないか。レストランで絶景を眺めながら食後にアイスでもと思っていた私たちの願いはむなしく、車が停まっている脇にござを敷いて、とりあえず持ってきたおにぎりを食べた。

塔の周辺は改修工事の最中だった
塔の周辺は改修工事の最中だった

今は廃墟のような姿をさらしているが、東独時代は年間24万人が訪れる人気の行楽地だったようだ。がらんとした塔を上ると、ところどころで昔の写真やレストランのメニューなどが壁に飾られている。結婚式など祝いの場としてもよく利用され、レストランに加えて、ワイン酒場や日光浴用のテラスも置かれていたそうだ。当時の人々のささやかな幸せが、色あせた紙からも伝わってくる。

高さ30メートルの塔の上からの眺めは、文句なしだった。たっぷりと湖水をたたえたミュッゲルゼー。その反対側には大河のようなランガーゼーがゆるやかに蛇行する。ここから見るかなたのテレビ塔や市内中心部の街並みは、緑の海の中に浮かぶ蜃気楼のようだ。

ミュッゲルトゥルムからランガーゼーの方面を望む
ミュッゲルトゥルムからランガーゼーの方面を望む

1990年代半ばからホテルへの改造など投資家がこの場所を私有化しようと何度か試みたが、いずれも頓挫している。果たして今回は……。往時のにぎわいを想像しながら、再びここを訪れる楽しみを胸に下山した。

インフォメーション

ミュッゲルトゥルム
Müggelturm

ミュッゲル山の上に建つ展望台。1890年に建てられた木造の塔が始まりで、火災による焼失後、1961年に現在の姿に生まれ変わった。公共交通ではS バーンのKöpenick駅からX69バスで行くのが便利。最寄りのバス停Rübezahlから徒歩で約1キロ。塔の近くに駐車場があり、車でのアクセスも可能。入場料2ユーロは塔の修復費用に当てられるという。

オープン:月〜日10:00〜16:00
住所:Straße zum Müggelturm 1, 12559 Berlin
URL:www.mueggelturm.berlin


グルーネヴァルトトゥルム
Grunewaldturm

西側の広大な森、グルーネヴァルトの中に位置するのがこちらの塔。1899年、皇帝ヴィルヘルム1世の生誕100年を記念して建設され、1948年までカイザー・ヴィルヘルム記念塔と呼ばれていた。36メートルの高さの展望台からは眼下のハーフェル川から市内中心部まで雄大なパノラマを楽しめる。U Theodor-Heuss-Platzから218番バスに乗って20分ほど。入場料は3ユーロ。

オープン:月〜日10:00〜22:00
住所:Havelchaussee 61, 14193 Berlin
URL:www.restaurant-grunewaldturm.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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