さえない天気が続いた5月半ばのある土曜の朝、屋内で過ごせて、かつ乗り物好きの子供も楽しめそうな場所が何かないかと考えていたら、ふと思いついた。地下鉄U1の車窓からよく見えるドイツ技術博物館はどうだろう。この博物館は膨大な展示スペースを持つために、まだ見切れていない。よし、今日はここに行ってみよう。
U1のメッカーンブリュッケ駅から5分ほど歩くと、屋上にベルリン空輸作戦の時に活躍したダグラスC-47が吊るされた、特徴ある外観が見えてきた。脇の入口から中に入ると、子供の姿も大勢あった。ベビーカーをそのまま預けられるなど、スタッフの対応も含めて、子供連れの家族への優しい空気がありがたい。
技術博物館が建つグライスドライエック一帯は、第二次世界大戦までは鉄道交通の要衝で、無数の線路や操車場が並んでいた。入り口のある旧館にはコンピューターや通信機器、印刷や織物技術の歴史が展示されている。当時の車両基地やターンテーブルをそのまま生かした鉄道車両の展示は、博物館の大きなハイライト。さらに写真や映像の歴史に関する展示、スペクトラムという別館のサイエンスセンター、かつて実際使われた風車やビール醸造所が備えられた広々とした公園もある。
充実したコレクションを誇る鉄道の展示
1日で回り切れる内容ではないので、この日は新館に絞って見学することにした。1階から3階までは船の展示。まず驚いたのは、19世紀半ばにベルリンの近郊で沈没した内陸水運の帆船がその後引き上げられ、原寸大(長さ36m)のままで展示されていたこと。隣には1901年製造の蒸気船クルト・ハインツ号が並ぶ。中世の航海を体験できるシミュレーター、数々の帆船模型も。19世紀末、多くの人々がハンブルクから新大陸に渡った時代の展示では、実物大に再現された1等と4等客室の落差が印象に残った。船が憧れと希望、不安と危険を隣り合わせに抱えながら、人や物を運んできた歴史を垣間見ることができる。
その上の階からは飛行機の展示。特に名高いのは1930年代にルフトハンザ社の主力だったユンカース社のJu 52だろうか。これらの活躍により、1932年から38 年にかけて、ルフトハンザの旅客輸送は3倍にまで膨らんだ。一方、輝かしい科学技術がナチスの時代に悪用された不幸な歴史についても、この博物館は記録に留めている。近くに、第二次世界大戦でソ連の主力攻撃機だったイリューシン Il-2の胴体前部の残骸が置かれていた。以前訪れた鉄道の展示スペースでは、過去の名車に混じって、ユダヤ人の強制輸送に使われた1両の貨車がポツンと置かれていたのを思い出す。
1930年代にルフトハンザの主力機だったJu 52
最上階のテラスからの眺めは最高だ。目の前に地下鉄の高架、その下の運河には観光船が定期的に行き来し、背景にはベルリン市内のパノラマが広がる。まさに技術博物館の舞台にふさわしい。2歳の息子は、黄色い地下鉄が通る度に抱っこをせがんだ。技術の発展が私達にもたらしてくれた恵みと楽しさ。一方、それが必ずしも人間を幸せにしてきたわけではない歴史。そんなことも、いつか子供に伝えられたらと思う。
ドイツ技術博物館
Deutsches Technikmuseum
1983年、当時の西ベルリンに交通技術博物館としてオープン。2万6500㎡の敷地の中に、交通、映像、印刷、化学、エネルギーなど人間の生活に関わるあらゆる科学技術を扱っており、ミュンヘンのドイツ博物館と並んで、ドイツの代表的な科学博物館として知られる。入場料は8ユーロ(割引4ユーロ)。6歳以下は無料。
オープン:火〜金9:00〜17:30、土日10:00〜18:00
住所:Trebbiner Str. 9, 10963 Berlin
電話番号:030-902540
URL:www.sdtb.de
地域交通の車庫の一般公開日
Tage der Of fenen Tür im Depot für Kommunalverkehr
9月の毎週日曜日、技術博物館が所有する4000㎡の広大な車庫に保存された歴史的な乗り物が一般公開される。150年間、ドイツの地域交通を彩ってきたバス、路面電車、地下鉄、乗用車など、そのコレクションは質量共に圧巻。博物館から無料のシャトルバスが出ているほか、古い客車を使った保存鉄道が車庫と博物館とを結んでいる。
オープン:2017年9月3日、10日、17日、
24日の10:00〜18:00
住所:Monumentenstr. 15, 10829 Berlin
URL:www.sdtb.de