ノイケルンのリックスドルフ(リックス村)は、変貌著しいこのエリアにあって、いつ訪れてもほっとさせてくれる場所だ。雑然としたカール・マルクス通りから横道に入り、そこを抜けると、背丈の低い家が建ち並び村の様相を呈してくる。この10年で洒落たカフェもちらほら出てきたが、古い集落の雰囲気はどっしりと残している。
この村のリヒャルト通りに、コメニウス庭園と名付けられた庭園がある。入り口に柵が立てられているので、何も知らないで来たら私有地と思って通り過ぎてしまうかもしれない。だがここはれっきとした公共空間。オープン時間内であれば、入口のボタンを押して誰でも中に入ることができる。
コメニウス庭園にある「遊戯学校」(Schola ludus)という名の舞台
私が初めてここに来たとき、入口からは想像できなかったほど奥へと続くので、その広さに驚いた。しばらく歩くと、名前の由来になっているコメニウス(1562〜1670年)の像が見えてくる。コメニウスは現在のチェコ出身の神学者、哲学者、教育学者で、現代の学校教育の仕組みを構想した人物として知られている。
なぜノイケルンにコメニウスが? それはこのリックス村の歴史と関係がある。ここはもともと、18世紀前半に東ボへミア地方の新教徒が迫害を逃れてベルリンにたどり着いた際、当時のプロイセン国王が彼らの定住を認めたことで生まれた集落だ。コメニウスが生きたのは、さらにその1世紀ほど前。モラビア兄弟団というプロテスタントの一派の代表だった彼は、宗教をめぐる迫害と残虐行為を目の当たりにした。そして、その狂気に満ちた負の連鎖から抜け出すには、子どもへの新しい教育こそが重要だと考えるに至ったという。
この庭園は、そんなコメニウスの教育理念を散りばめた哲学と学びの場というコンセプトで生まれた。例えば入ってすぐのところに、「神の目」という名の三角形のスペースがあり、それぞれ角に双眼鏡、顕微鏡、鏡がモチーフのオブジェが置かれている。ここは高等教育をテーマにしているという。
その先の一角「ラテン語学校」には、「遊戯学校」という名のちょっとした劇ができそうな木製の舞台がある。コメニウスは演劇教育の重要性を主張し、今日学校で行われるキリストの降誕劇に見られるような、教育の中に演劇を取り入れた先駆者となった。壁に飾られた子どもたちが描いた絵は、世界最初の絵入り子ども百科事典といわれる『世界図絵』に関連したもの。実際この庭園では、子どもたちが果物を育てたり、創作をしたりという場としても活用されているそうだ。
さらに奥に行くと、「心の楽園」という名の園丁が置かれ、さまざまな種類の庭園や小さな池がある。どれも意味ありげな名前が付いているが、いずれもコメニウスの著書や思想に関係があるそうだ。
後で調べながら、「このオブジェにこんな深い意味があったのか」「あの先にまだ道が続いていたのか」などいくつもの発見があった。400年以上前に、現代の学校教育の基礎となる思想から生涯教育の重要性までを説いたコメニウス。今度は幼稚園で日々新しいことを学んでいる息子を連れて、ぜひここに来たいと思った。
「心の楽園」と名付けられた園丁が奥に見える
コメニウス庭園
Comenius-Garten
1980年代、古い住居を取り壊して生まれた空き地に学校の体育館を造る計画があったが、周辺に公園が少ないことから地域住民が熟考を重ね、リックスドルフの成り立ちと関係の深いコメニウスをテーマにした庭園が造られることに。コメニウスの生誕400年に合わせてプロジェクトが進められ、1995年にオープンした。
オープン:月曜~日曜12:30〜19:30
住所:Richardstr. 35, 12043 Berlin
電話番号:030-6866106
URL:http://comenius-garten.de
アルト・リックスドルフ クリスマスマーケット
Alt-Rixdorfer Weihnachtsmarkt
リックスドルフといえば有名なのが、毎年第2アドヴェントの週末に開催されるクリスマスマーケット。リヒャルト広場周辺に150以上もの屋台が並び、昔ながらのクリスマスの雰囲気を味わえる。広場の中ほどには17世紀から続く鍛冶屋があり、そこで職人さんが実演を見せてくれるなど、ほかのマーケットにはない楽しみも。
開催:12月7日(金)17:00〜21:00、8日(土)14:00〜21:00、9日(日)14:00〜20:00
住所:Richardplatz 28, 12055 Berlin