フランクフルトの世界文化博物館「Weltkulturen Museum」では、2019年9月1日まで、加齢をテーマにした特別展を開催しています。芸術というと、古典の巨匠たちの作品や新進気鋭の若手アーティストの展示などを思い浮かべがちですが、今回の企画展「GREY IS A NEW PINK」では写真や絵、映像などさまざまな手法で、年齢とは? 老いとは? といったユニークなテーマに挑んでいます。
マイン川沿いにある世界文化博物館
展示場を入るとすぐ「GREY IS A NEW PINK」と書かれた壁の周りに、たくさんの写真やイメージが並べられているのが目に入ってきます。これは「あなたの老いのイメージとは?」という問いかけに、世界中の150人を超える参加者が応えたもので、写真からスケッチ、スマホ動画に至るまで350作品以上のエントリーがあったのだとか。その中から厳選された165点が、エントランスホールから上の階まで一挙に展示されています。文化や国、時代、各自の捉え方によって異なる表現で、加齢を視覚化しているのが興味深く、鑑賞者自身の老いへのイメージとも相まって、一つひとつの映像作品からさまざまな印象を受けた展示でした。
エイジングをテーマに全世界からエントリーされた165点のイメージ
全部で12のセクションに分かれた展示では、記憶、知識、愛、性、病気、死など多角的な側面から老いが描き出されています。知識のセクションでは、鑑賞者も年長者から教わったレシピや知恵を共有することができます。展示室に用意されたノートに鑑賞者が自由にレシピを記入でき、ドイツ語や英語、中国語や韓国語などの各国語でレシピが書かれていました。単なる受動的な鑑賞に留まらず、積極的に展示に参加することができるのも面白いと思いました。
鑑賞者も参加できる知識の共有セクション
ほかにも、トランスジェンダーや既存の性別に当てはまらない年長者の写真とインタビューを紹介した加齢と性のセクションや、長寿の地域に注目しそこでの暮らしを研究し長く生きる秘訣について紹介した展示も。老いを軸に幅広いテーマを取り扱っているので、終始飽きることなく鑑賞できました。また最後の展示室の中央にはカラフルな鳥のオブジェが展示されています。これはガーナの棺桶だそうで、ガーナでは自分の死について生前から考える伝統があるのだとか。日本の終活と呼ばれる最期の迎え方を考える傾向にも通じるものがあり、タブー視されがちな死についても考えさせられる内容でした。
日本語で「老い」という言葉はネガティブなイメージを受けるので、一体どんな内容なのかと疑問に思いましたが、「歳を重ねること」と丁寧に向き合った興味深い特別展でした。私は子どもと一緒に見に行ったのですが、鑑賞者の年齢や文化的背景によって受ける印象も変わるので、世代の異なる人たちと一緒に鑑賞するのもおすすめです。
世界文化博物館:www.weltkulturenmuseum.de
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。