環境問題に関心の深いドイツの人々は、原子力発電をストップするために、デモをはじめ、多くの取り組みを行っています。今年で第6回目を迎える「原子力のない朗読会」もその一つ。様々なゲストを招待してハンブルク各地の劇場や映画館で、講演会や対談などを行っています。会場も出演者も、趣旨に賛同して協力しているので、すべて入場無料です。今年は4月21日~27日に行われましたが、3月23日にプレ大会として、5年前の福島第一原子力発電所の事故当時、日本の首相であった菅直人氏の講演会がありました。
会場は民俗博物館の300名収容の講堂。開場前から、既に多くの人が並び、開場と同時に講堂は満席になってしまいました。急きょ、隣の部屋にスクリーンを設置して中継されることになりましたが、そちらにも200名が集ったそうです。皆さんの関心の高さがうかがえます。
会場に集まった人々
菅氏の講演に先立ち、ハンブルクと原子力発電との関わりが主催者より説明されました。原子力発電所で用いる核物質を輸送するために、現在も週1~2回、核物質を積んだ船がハンブルク港へ来ているそうです。もしその船が事故に遭って核物質が流出したら甚大な被害をもたらすので、核物質搭載船の寄港禁止を求めたいとの話もありました。既に禁止令を出している港もあるので、すべての港が禁止令を出せば、原子力発電を減らすことにつながるとのことでした。
後半、ドイツ人のインタビュアーの質問に答える菅直人氏
いよいよ菅氏の登場です。彼は「地震と津波は天災であるが、福島の事故は人災でもある」と発言しました。もともと原発のある土地は海から35mの断崖絶壁だったのに、冷却水をポンプでくみ上げやすいように、わざわざ10mまで崖を掘り下げて原発を建てたそうです。元の35m地点に原発を設置していれば、津波の被害はなかったのです。人間の誤った判断により、事故を招いたといえます。福島では今も、1日に6000~7000人の作業員が高放射能の中、作業を行っています。「専門家は安全だと言っていた。しかし果たして、人間は核をコントロールできるのだろうか」とのくだりでは、会場から大きな拍手が上がりました。菅氏は「私も3.11の事故までは、『日本の原発は安全だ』と思っていた。しかし、福島の事故以来、考えを180度変えた。原発を廃し、石油・石炭の火力発電も減らして太陽光発電など、再生可能エネルギーに移行していく必要がある。資源の奪い合いがなくなれば、戦争の原因もなくなる」と締めくくりました。
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?