ハノーファー学校生物センター(Schulbiologiezentrum Hannover)は、1883年に創立されたドイツで最も古い環境教育施設の一つです。総計2000平米の敷地に温室、菜園、森林などがあり、色とりどりの草花が咲く庭園をクジャクが練り歩いています。ここではさまざまな体験的な植物学習ができるほか、植物のみならず生き物も飼育しており、教材と共に動植物を貸し出して地域の理科教育をサポートしています。
この夏、東京の獨協中学・高等学校の生徒25名と教職員が同センターを訪問しました。校名の通りドイツと縁が深い同学校は、コロナ禍で中断していたドイツ研修旅行を今年から再開。生徒たちはハノーファーの家庭にホームステイしながら、環境教育施設や現地校で学びます。僕は通訳として同行しました。
学校生物センターの案内役は、職員のヨーク・レッダーボーゲンさん。「退屈しない植物授業」をモットーとする彼は、ハーブ各種が植えられている「薬草の庭」で学生にあめを配り、どんなハーブがこのあめに使われていると思うかと問います。たった一粒のあめに15種類以上の薬草が含まれていることに驚きました。ハーブの多様性に触れながら、昔は暮らしの知恵として重宝されていたであろう薬草の知識をもっと身に付けたくなります。
職員のヨークさんと高校生
続いて、3枚の葉っぱが配られました。言われるがままに1枚目の葉っぱを噛むと、酸味と渋みを感じます。続いて2枚目の葉を口に入れると、甘味がフワッと広がりました。3枚目を口に放り込むと、じんわり痺れてきます。そして希望者に配られた植物の蕾は、突き刺すような強烈な痺れをもたらし、口の中で爆発が起こったかのようでした。植物の個性を味覚で体感する。知識だけでなく、五感を使う学びは魅力的です。隣にいた生徒の口から、「なんでこんな授業が日本にはないんだろう」という言葉が漏れました。
ほかにも約50種類のトマトを食べ比べながら品種改良の歴史を勉強したり、植物の匂いを嗅いで描写したり(洗っていないパンツのような臭いがする植物がありました)、鉢植えにバケツを被せて同じ植物を探す神経衰弱をしたり。教室でレクチャーを受ける形式ではなく、身体を使った学習に盛り上がる若者を見ながら、教育の形について考えさせられました。僕自身、中高時代に植物について習っているはずですが、実際に現物に触ったり、匂いを嗅いだりしながら説明を聞くと全く印象が異なるし、もっと知りたくなります。
さまざまな種類のトマトの断面
中学生、高校生という時期にドイツに来て、このような体験をしている彼らをうらやましく思いました。学校生物センターは、環境体験学習の場としておすすめです。週末には、市民向けのコースも開かれているようなので、ぜひチェックしてみてください。
植物の多様性を感じた楽しい時間でした
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
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