個性的な雑貨が並ぶ店や、唯一無二の手作りの服、色鮮やかな子ども用品……。そんな店々が連なるハノーファーのリンデン地区は、築100年以上の建物が並び、歩くだけでも楽しい気分になる場所です。このリンデン地区は今年、創立900年を迎え、年間を通して100以上の催しが開かれています。
リンデン地区は、もともとハノーファー市とは別の都市で、1115~19年の間にできたとされています。1920年にハノーファー市に合併されるまで、リンデン市として栄えていました。特に19世紀には、石灰モルタルや蒸気機関車の製造が始まり、工業都市として発展。8万人以上が住んでいたといわれています。
ハノーファー市よりも歴史が古く、個性溢れる地区として人気があり、学生や外国人も多く、多国籍でオルタナティブな雰囲気が漂っています。現在は約4万人が住み、地域に愛着を持っている人が多いのが特徴です。
リンデン900周年の催しは、昨年のクリスマスに、899本のろうそくを灯したイベントを皮切りに始まりました。音楽や演劇、展示、ワークショップなど、様々な企画があり、特にリンデンの歴史を巡るガイドツアーやワークショップが好評です。|
また、ハノーファーで一番古い長屋式の住居はリンデンにあります。リンデンマルクト広場の市役所分館は1899年に建てられ、2013年に改装して、モダンに生まれ変わりました。この分館をはじめ、カフェやイベント会場では、リンデンを舞台にした映画が随時上映され、これまでの歴史を振り返っています。リンデン地区の古い建物の改装計画をするグループなどによる、地域おこしのための討論会などもあります。
先日開かれたリマー通りのお祭りでは、地元のお店や団体がブースを出し、ライブ演奏やカラオケなどの舞台も設置され、数千人の人で賑わいました。子どもたちが工作やクイズを楽しむコーナーがあったり、路上には多国籍な料理の匂いが漂うなどし、老若男女が楽しんでいました。地元の活版博物館のブースでは、70~80歳代のベテラン活版印刷職人が、昔の道具でしおりに名前を印刷してくれました。
活版博物館のブースでは、昔の印刷技術を実演
こうした催しは、地域で活躍する人々の活動を披露する場にもなっており、張り合いがあるように見受けられました。皆、多かれ少なかれ顔見知りであるということも、盛り上がっている理由でしょう。
リンデンマルクト広場のお祭りにて
900周年イベントには、多くの地元団体や市民がボランティアで関わっています。そのため、手作り感があり、とてもアットホーム。いっそう魅力あるリンデン地区にしていこうという、人々の意気込みが感じられます。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。