キール運河(Nord-Ostsee-Kanal)が、世界三大運河の1つに数えられていることをご存じでしょうか? これは、バルト海から北海に抜ける長さ約98kmの運河です。昨年まで私はキール運河のすぐそばに住んでいて、毎日のように運河を行き交う貨物船やヨット、そして開いたり閉じたりする水門を眺めながら運河沿いを散歩したり、渡し船を利用して町へ行ったりしていました。そのため、この運河は私にとって馴染み深いものではあるのですが、その建設の歴史などについてはほとんど知りませんでした。そこで先日、以前から参加したかったキール・ホルテナウの水門見学に行ってきました。
バルト海側のキール・ホルテナウにある運河の出入り口
1時間半の水門見学では、年配のガイドさんの興味深い説明を聞きながら古い水門(長さ125m、幅22m、水深7m)の上を実際に歩いたり(水門の上からは、運河側の水位がバルト海側より低いことがはっきり見えました)、新しい水門(同310m、42m、11m)が開くのを間近で見たり、水門のある中島の小さな博物館で当時の貴重な資料や写真などを見ることもできました。
バルト海と北海を結ぶ運河の建設構想はすでに16世紀から始まっており、1784年にアイダー運河が完成しました。しかしこの運河は、幅29メートル、深さ3メートルと小規模で、通航できる船が喫水の浅い船のみに制限されていたため、1887年に新たな運河の建設が始まったのです。そして8年後の95年、現在のキール運河(キール・ホルテナウ-ブルンスビュッテル間)が完成しました。それまではバルト海-北海間を抜けるには、危険を伴いながらユトランド半島を大回りしなければならなかったのが、それ以降、ずっと短時間で安全に航行できるようになったのです。
またスエズ・パナマ両運河の建設に際しては、マラリア蔓延などのために甚大な犠牲者が出ていますが、キール運河建設の際には死者が1人も出なかったそうです。(宿舎、食事、洗濯などのサービスが徹底していたそう)今までにキール運河で事故により沈んだ船は1隻だけ、そして年間の運河の航行量は前述の両運河の約3倍(約4万2000隻)だとガイドさんが誇らしげに語っていたのが印象的でした。
この水門見学は3~10月の期間に(見学料1人2.30ユーロ)行われていますが、セキュリティ強化の関係上、残念ながら数年後に廃止されるそうなので、キールにいらした際にはぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
福岡出身。2005年に渡独。夫と娘との3人家族。キール・フィルハーモニー合唱団所属の音楽好き。最近凝っているのは家庭菜園。