ドイツで生活していると、日本の家族や友人たちがドイツに訪ねて来てくれるなど、街案内をする機会が多くなりますよね。私はキールを案内する際、キール湾はもちろんですが、必ず客人を連れて行くところがあります。
それはキールの旧市役所。「市役所なんて別段珍しくも何ともないじゃないか」とおっしゃる方がいるかもしれません。1911年にイタリア・ヴェネツィアの市役所を模して建てられたというこの旧市役所(元々15世紀に建てられたものは第2次世界大戦中に破壊され、残っていない)は、高さ107mの塔が街のシンボルになっているくらいで、外観はドイツのほかの都市のものと比べて特に目を引くというものではありません。それなのに、なぜここへ案内するのかというと、旧市役所の中に日本にはないエレベーターが存在するからです。旧市役所の入り口から待合い場所を兼ねる長い廊下を進んでいくと、建物の突き当たりの右手にそれは見えてきます。
そのエレベーターの名は「パターノスター(Paternoster)」。(ラテン語で「われらが父なる神よ」という意味)扉のないエレベーターで、2つのコンパートメントがチェーンによってループ状に止まることなく動き続けるというものです。扉がないだけでも何だかドキドキしてしまうのに、このエレベーターは各階ごとに停止することなく、速度はゆるやかですが、始終動き続けているのです。利用する際は自分でタイミングを見極めて乗ったり降りたりしなければならず、初めて乗ったときは緊張しました。また、パターノスターの仕組みについて知らずに乗ったため、「最上階まで行ったらどうすれば良いのだろう」とちょっと不安になりました。しかし、コンパートメントが横にずれただけでそのまま下降していき、最下階で再びコンパートメントが横にずれ、再び上昇・・・・・・という動きを繰り返し、約3分かけて1周しました。たかがエレベーターなのですが、客人を連れて行くと皆、「面白い!」と喜んでくれます。(ただし、身体に障害のある方や子どもだけでの乗車は禁じられています)
パターノスター。ロザリオに似ていることから、
この名前が付いたそう
パターノスターについて調べてみたところ、この旧式のエレベーターは、現在まだヨーロッパを中心に存在しており、ドイツは世界一のパターノスター保有国(251機)であることが分かりました(ちなみに2位はチェコ共和国で55機、3位はオーストリアで19機)。
下記は、国内のパターノスターのリストが載っているHPアドレスです。お近くのパターノスターを調べて、1度乗ってみるのも一興かもしれません。
www.alice-dsl.net/wolfgang.flemming/patlist.htm
キール旧市役所
福岡出身。2005年に渡独。夫と娘との3人家族。キール・フィルハーモニー合唱団所属の音楽好き。最近凝っているのは家庭菜園。