19世紀、ライプツィヒに住んでいた医師で教育改革者のモーリッツ・シュレーバー博士(Dr. Moritz Schreber)によって、「クラインガルテン(Kleingarten)」という集合型の市民農園が設立されました。彼の名前に因んで、「シュレーバーガルテン」とも呼ばれます。当時、産業革命によって急速に発展した都市では、庭用スペースの減少による生活環境の悪化が問題となり、市民のための緑地空間として考案されたのがこの農園制度です。また、戦争中に少しでも食料の足しとなるための農作物を栽培する場としての役割も期待されました。
1919年にクラインガルテン法が制定されると、非営利の賃貸農園として整備が進みます。住民に週末などを利用して、一般家庭用の小さな畑で農作業を楽しんでもらい、健康増進や子どもの教育に役立てようという目的で確立された制度は、急速にドイツ各地へと広まっていきました。
クラインガルテン博物館内の展示の様子
クラインガルテンの大きさは、一区画100㎡から500㎡以上のものまで様々ですが、最も多く利用されているのは、生け垣や柵などで区切られた約100㎡のもの。それぞれの区画には、屋根投影面積(屋根を真上から見たときの面積のこと)が最大24㎡までのラウベ(Laube=小屋)の設置が可能です。利用したい人は、それぞれの協会に年会費を払って登録します。
利用者は借りている区画にオリジナル・デザインのラウベを建て、農具や簡易家具を収納しています。下水処理用の申請料を支払って手続きをすることで、割り当てられた区画内にトイレを設営することもできますが、持ち帰り可能な簡易トイレやバイオトイレか、あるいは敷地内の共用トイレを利用している借主がほとんどです。多数のクラインガルテンが集まる敷地は、「クラインガルテン協会」という団体が管理しており、敷地内には共用の建物として、トイレのほか、場所によっては集会所や、借主以外の人も利用できるビアガーデン、カフェなどがあります。
敷地内に展示されている歴代のクラインガルテン
クラインガルテンの発祥の地であるライプツィヒには、この農園制度を支援する市民が協力し、1996年に正式にオープンした「クラインガルテン博物館」があります。博物館の中には、200年にもおよぶクラインガルテンの歴史や発展にまつわる品々に加え、歴代のクラインガルテンが使われていた当時のまま展示されています。
1880年に建てられたドイツ最古のラウべや、ザクセン州のクラインガルテンの歴史を物語る4つのラウベは見応えたっぷり。1900年当時に理想とされた子どもたちの遊び場も設営されていて、まさに体験型歴史博物館という感覚で、家族皆で楽しめるスポットです。
福岡県生まれ。東京理科大学修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の建築事務所に所属し、10年に「ミンクス.アーキテクツ」の活動を開始。11年よりライプツィヒ「日本の家」の共同代表。www.djh-leipzig.de