19世紀を全盛期として、ヨハン・ゼバスティアン・バッハやフェリックス・メンデルスゾーン、ロベルト・シューマン、リヒャルト・ワーグナー、グスタフ・マーラーなど、多くの優れた作曲家がライプツィヒを拠点に音楽活動を繰り広げました。それを象徴するように、西洋のクラシック音楽を代表する楽団や劇場、音楽大学、楽譜、楽器までもが、この街と密接な関係を持っています。
市内には、バッハ博物館やメンデルスゾーン・ハウスなど、作曲家の名を冠した博物館がいくつもあり、彼らの活動の歴史を語る品々が展示されています。ただし、各博物館や音楽関連のイベントは独立した団体によって運営されており、主な活動資金である行政からの助成金も、各団体が個別に申請しています。そのため、小さな団体は活動を制限せざるを得ない状況でした。
そこで昨年5月、シューマン・ハウスで広報や経理の支援活動をしていたドイツ人女性が発起人となって、ライプツィヒ全体で展開されている音楽活動を互いに結び付けるプロジェクトが始まりました。それが、音楽遺産プロジェクト「音符の軌跡 (Notenspur)」です。このプロジェクトは、広報に力を入れることが難しかった小規模な団体にとって大きな後押しとなりました。と言うのも、それによってコンサートなどの様々なイベントが1つにまとめられ、これまで団体間で格差があった助成金も、プロジェクト全体で1つの枠として申請できるようになったのです。
シューマン・ハウスの前に埋め込まれた銀色のマーク(左)とその脇の解説ボード
プロジェクトがスタートした昨年は、市内に音楽活動の軌跡を繋ぐ3つのルートが開通しました。メインとなるのは約5kmの徒歩ルート「音符の軌跡(Leipziger Notenspur)」、2本目は市内西部を巡る「音符の弧線 (Leipziger Notenbogen)、そして3本目は広域を自転車で走る「音符の輪 (Leipziger Notenrad)」です。それぞれの音楽家ゆかりの場所には、音符を象った銀色のマークが道路に埋められ、解説ボードが設置されています。各ボードに記載されている番号に電話をかけると、自動アナウンスによる解説を聞くことができます。ルート案内などの情報は、同プロジェクトのウェブサイト(www.notenspur-leipzig.de)からダウンロードできるほか、市内のツーリスト・インフォメーションでも入手できます。愛嬌のあるプロジェクトのマスコットキャラクター「トニー」も人気になっているようです。
徒歩ルートに設定されている23の拠点(「音符の軌跡」パンフレットより)
偉大な音楽家の功績を後世に伝える遺産プロジェクト「音符の軌跡」では現在、ユネスコ世界文化遺産への登録手続きを進めています。その報告は、2016年に届く予定です。
福岡県生まれ。東京理科大学修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の建築事務所に所属し、10年に「ミンクス.アーキテクツ」の活動を開始。11年よりライプツィヒ「日本の家」の共同代表。www.djh-leipzig.de