ジャパンダイジェスト

産業遺産レトロ・ボーリング場の行方

ライプツィヒ市中心部のヴィルヘルム・ロイシュナー広場に、ぽつんと空き家になっている八角形の建物があります。これは1926年に建てられた地下式変電施設を、1985年にライプツィヒ市がボーリング場として改修し、その際に設置したエントランス棟です。1997年に空き家となり、今日までそのままの状態で残っています。

エントランス棟
現在、空き家になっているエントランス棟

建築家ヴィンフリード・スツェゴライト(Winfried Sziegoleit)設計のこの小さな建物は、社会主義時代のポストモダン様式で、慌ただしい勢いで開発されている都市中心部にありながら、レトロな雰囲気を醸し出しています。

そして実は、この小さなエントランスからは想像もつかないような空間が、地下には広がっているのです。14レーンのボーリング場や大小のホール、ビリヤード場、カジノ、フィットネスクラブ、会議室、VIPルーム、オフィス、カフェ、レストランがあり、多目的施設として使用されていました。

ボーリング場
1987年当時のボーリング場の様子

空き家になってからは、ライプツィヒ文化財団(Kul turstiftung Lei pzi g)が中心となって、文化施設として再生する案を提示していますが、実現には至っていません。手狭になったライプツィヒ自然博物館の移転案もありましたが、繊細な展示品の取り扱いと莫大な改修費用のために、保留になったままです。2013年に開通したシティー・トンネルの駅のすぐ横にあるので、大きな音を出すイベントやコンサートにも最適な場所とあって、文化・芸術の拠点として利用するには大変魅力的な空間です。しかし、歴史的建造物に指定されているため、最低限の改修費用だけでも750万ユーロ、さらに周辺道路のアスファルトを舗装し、歩道と自転車道を整備するためには、約20万ユーロの投資が必要であると予想されています。

さて、ライプツィヒ市民の大きな関心を集めているこの空き家ですが、いよいよ何かしらの動きがありそうです。売買されるのか賃貸となるのかはまだ発表されていませんが、所有者である市が入札の準備をしており、近いうちにその公募が予定されています。いずれにせよ、産業遺産が眠りから覚める日もそう遠くはなさそうです。

私個人としては、投資デベロッパーが改修して営利目的のキレイな商業空間にしてしまうのではなく、市民が市民のために使える、レトロな雰囲気を残したままの文化施設となることを願っています。

http://kulturstiftung-leipzig.de/projekte/aktuelle-projekte/

ミンクス 典子
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de
 
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