先日、ある少々変わった絵画展に出掛けてきました。ギャラリーの名前は「Hausgeburt」。日本語に訳すと「自宅出産」。ギャラリーはシュトゥットガルト北駅近くのヴァーゲンハレと呼ばれているエリアにあります。ヴァーゲンハレは昔、ロイヤルヴュルテンベルク州立鉄道時代(1843-1920年)の列車の修理ホールでしたが、2003年に50人あまりのアーティストやクリエーターのためのアトリエとスタジオとして改造され、活用されてきました。今日に至るまで何度も存続の危機に立たされましたが、市民や様々な人々の支えと生き残りをかけた戦いを通して、何とか今まで続いてきました。地元ではとても有名な場所です。
私たちが行こうとしたギャラリーは旧工場の裏側に位置していて、赤いれんが作りの古いアパートのような建物の地下にありました。建物に入ってみると、廊下や階段などずっと昔のまま時間が止まったようで、どこか一昔前の東京・同潤会青山アパートの雰囲気に似ていて個人的には懐かしいものでした。
ギャラリーはとても個性的です。壁は昔ながらのれんがにしっくいと白い色が塗られ、粗い凸凹はそのまま。床と天井は所々れんがとしっくいがむき出し。一番ユニークなのは、もともと地下にある配水管や蛇口も白く塗られて絵と絵の間に顔を出していて、展示空間も含めて一つの作品であるかのような、インスタレーションにも見えるところです。合わせて4~5個の空間でしょうか、手作りの素朴な雰囲気があり、親近感が湧きます。
ギャラリー「自宅出産」の展示空間
ギャラリーを出て、辺りを散歩してみますと、広場と大きなホールがありました。ここでは、コンサートや文化イベントなどが開催されているそうです。さらに、空き地にコンテナがたくさんあることに気づきました。確かホームページに、昨年の12月からヴァーゲンハレの新しい改築計画が始まり、アトリエとスタジオはまず一時的に「コンテナの町」に引っ越す、というようなことが書かれていましたが、それがこの場所のようです。
イベントホールの入り口
実は2017年の初めから、ヴァーゲンハレに大きな変化が訪れようとしています。周辺に新しい住宅地が作られ、改装された建屋では講演会や演劇、展示会、映画など、様々なイベントが行われる予定です。芸術と文化の空間が残されることが約束されましたが、この場所を守り続けていくために、これからも地域の人や政治家、アーティストが対話を続けることがとても大切であるとされています。
何年か後にギャラリー「自宅出産」はまだ同じ場所に存在しているかどうか心配ですが、文化の発信地というヴァーゲンハレのアイデンティティーを、新しい形でぜひ継続してほしいと思います。
http://kunstverein-wagenhalle.de/
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
www.kakueinan.wordpress.com