コロナ禍で外出もしなくなり、日光に当たることが少なくなりました。ビタミンD不足にならないかと心配しているのですが、どうしたら良いでしょうか?
Point
- ビタミンDは骨に不可欠
- 大半は日光を浴びて生成
- 脂肪の多い魚、きのこ類にも
- 多くの人がビタミンD不足
- 骨痛、筋肉痛、骨折のリスクと関連
- 晴れたら日光を浴びよう
- 欠乏にはビタミンD製剤も
ビタミンDの基礎知識
● 強い骨を作るのに必要
ビタミンD(Vitamin D)は骨を作る上で欠かせない栄養素です。ビタミンDの助けがなければ、カルシウムは骨や歯に運ばれません。
● 腸からのカルシウム吸収を助ける
ビタミンDは小腸からのカルシウム吸収と腎臓で尿中カルシウムの再吸収を促します。ビタミンDが足りないと、食事から摂取したカルシウムが腸で十分に吸収されません。
● ビタミンD2とD3が大切
6種類あるビタミンDの中で、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)が重要です。体内のビタミンDは肝臓と腎臓で活性型に変えられて生理作用を発揮します。
体の中でのビタミンDの流れ
● 神経と筋肉の働きに関与
カルシウムのイオン(Ca++)は筋肉を動かしたり、神経の信号を伝えるのに必要です。ビタミンDは副甲状腺ホルモン(PTH)と共に血中カルシウム濃度の調整に役立っています。
ビタミンDはどこから?
● 太陽光の恵みによるビタミンD
緯度が南北35度以内の地域では、必要なビタミンDの80〜90%は太陽光(紫外線)により作られます(2007年のN Engl Med誌)。ドイツは北緯47〜55度に位置するため、特に冬季は気を付けていないと日光に当たる時間が不足する傾向に(2016年のJ Health Monitoring誌)。
● 食物からのビタミンD
ビタミンDを含む食品は限られています。サケ(Lachs)、ニシン(Hering)など脂身の魚や魚肝油にはビタミンD3が、シイタケなどのきのこ類にはビタミンD2が含まれています(日本人の食事摂取基準 2020年版)
100gに含まれる量(μg) | |
ニシン(Hering) | 7.8~25 |
サケ(Lachs) | 16 |
サバ(Makrele) | 4 |
アンズタケ(Pfifferlinge) | 2.1 |
シャンピニオン(Champignons) | 1.9 |
ビタミンDの充足度
● 体内ビタミンDの過不足の指標
ビタミンDが代謝されてできる「血中25-ヒドロキシビタミンD」(以下、血中25-OHビタミンD)の濃度測定によって知ることができます。
● ビタミンD不足の基準
ドイツを含め国際的には、血中25-OHビタミンD値が30nmol/l(12μg/l)未満でビタミンD欠乏(Mangel)とされ(2016年のJ Health Monitoring誌)、30〜50nmol/lでビタミンD不足(unzureichend)とされています(ドイツ連邦リスク評価研究所、以下BfR)。
● ロベルト・コッホ研究所(RKI)の調査
ドイツに暮らす成人の30.2%がビタミンD欠乏で、適正値(50nmol/l以上)だったのは38.4%と報告されています(2016年のJ Health Monitoring誌)。
● 日本に暮らす人のビタミンD
1683名の日本人を対象としたThe ROAD studyでは、ビタミンD「不足・不十分」(血中25-OHビタミンDが30nmol/l未満)が全体の82.5%を占めました(2013年のOsteoporosis Int誌)。107名を対象とした最近の調査でも、夏季は47.7% 、冬季は 82.2%がビタミンD不足(30nmol/l未満)と報告されています(2020年のNutrients誌)。
● ドイツに暮らす日本人は
もともとアジアの人々は皮ふの色が薄い欧州の人々に比べて紫外線から受ける影響が弱く、冬の日照時間が短いドイツではさらにビタミンDが不足しがちです。また紫外線対策をしている人は、日光浴の機会を減らしてしまっている可能性も。
ビタミンDが不足するとどうなる?
● ビタミンD欠乏の症状
筋肉痛、筋力の低下、骨の痛みを生じる場合があります。特に骨盤、脊椎や足の骨が弱くなりやすく、腰背部の痛みやおしり(骨盤部)の圧痛を伴うことがあります。
● 骨が脆くなる
骨の形成がうまく行かず「類骨」と呼ばれる石灰化していない骨器質が増えます。骨成長前の幼少時にビタミンDが不足・欠乏すると「くる病」、大人では「骨軟化症」を生じます。
● 妊婦のビタミンD不足
日本の妊婦、産褥(さんじょく)婦ではビタミンDが不足していることが示唆されています(2017年の日本公衆衛生雑誌)。日光浴を好まない母親から生まれてくる赤ちゃんもビタミンD不足のリスクが高くなります。
● 高齢者のビタミンD不足
高齢になると皮ふのビタミンD生成能が若い人に比べて低下します(2020年のNutrients誌)。そのため高齢者では骨粗しょう症になりやすく、転倒での骨折も増えます(2013年の J Bone Miner Metab誌、 2017年のOsteoporos Int誌)。
ビタミンD過剰症
● 蓄積すると健康障害も
ビタミンDは水に溶けにくい脂溶性ビタミンです。ビタミンD製剤の摂り過ぎで体内で過剰に蓄積すると(血中25-OHビタミンD値が125nmol/l以上で疑い)、健康障害の原因になります。
● ビタミンD中毒の症状
血中のカルシウム値が上昇し、食欲低下、吐き気、嘔吐、脱力感や痙攣を起こすことがあります。血管壁、腎臓、心臓、肺などにカルシウムが沈着しやすくなります。
ビタミンDが足りない人は
● まずは日光を十分に浴びる
太陽光(紫外線)を浴びることが基本です(2020年のNutrients誌、BfR)。日光浴でビタミンD過剰になることはありません。ドイツでは週に2〜3回あるいは毎日5〜25分、顔・手・腕・足に太陽光を当てることが勧められています(RKI、BfR)。日差しの弱い冬季は、より長い日光浴時間が必要です(2013年のJ Nutr Sci Vitaminol誌)。
● 日焼け止めクリームはOK?
日焼け止めクリームにより皮ふのビタミンD産生も低下します(紫外線環境マニュアル2020)。ガラス張りのヴィンターガルテン(Wintergarten)内での日光浴もあまり効果がありません(2019年2月の雑誌Stern)。
● ビタミンDの補充
日光に当たる時間がない人、病気で屋内での生活に限られている人、骨粗しょう症の治療が必要な人、血中25-OHビタミンD値の低い場合には、ビタミンD製剤が用いられます(BfR)。また、ドイツでは乳児のビタミンD不足を防ぐ目的で、連邦食糧・農業省(BMEL)より1歳未満の赤ちゃんへのビタミンDの補充投与(1日10〜12.5μg[=400〜500IU])が勧められています。
● ビタミンD投与量の上限は?
ビタミンD過剰症を防ぐため、成人(および11歳以上の子ども)でのビタミンDの耐容上限量は、食事からの摂取も含め1日100μg(=4000IU)です。また、10歳までの小児は1日50μg(=2000IU)までとなっています(欧州食品安全機関、EFSA)。