りんごを食べると唇やのどが痒くなります。
りんごのアレルギーってあるのでしょうか?
果物でアレルギー?
秋は果物の季節。でも美味しいはずの果物を食べると、口の中がピリピリとむず痒くなる人がいます。口腔アレルギー症候群(Orale Allergiesyndrom)と呼ばれ、りんごやサクランボ、モモ、メロン、キウイと原因となる果物は様々です(表1)。果物アレルギーは食物アレルギー(Nahrungsmittelallergie)の一種ですが、実は花粉症(Heuschnupfen)とも密接な関係があります。平成14年・17年度の厚生労働科学研究報告書によると、食品によるアレルギー全体の約6%を果物アレルギーが占めています。花粉症を患う人が増えるに従って増加傾向にあると推測されています。
マタタビ科 | キウイ |
---|---|
バラ科 | モモ、りんご、ナシ、 サクランボ 、イチゴ |
ウリ科 | メロン、スイカ |
バショウ科 | バナナ |
ミカン科 | オレンジ、レモン |
パイナップル科 | パイナップル |
果物アレルギーの症状は?
果物アレルギーの主な症状は、口腔アレルギー症状です。ある特定の果物を食べると、15分以内に唇や舌、のどの奥がイガイガと痒くなります。子どもなら、「不味い」「苦い」「辛い」「口が痛い」などと訴えることもあります(図1)。果物アレルギーの原因となるタンパク質は消化液で分解されることが多いため、口腔内のアレルギー症状に留まり、全身症状は伴わないケースが少なくありません。
果物を食べて救急車を呼ぶことも!
しかし、場合によっては皮膚や粘膜にじんま疹が出たり、目や鼻の痒み、さらには腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状を生じることもあります。気管支喘息を誘発したり、アナフィラキシー反応(急性の全身性の即時型アレルギー反応)を起こしたり、救急車を必要とする重篤な症状をきたすこともあります。
花粉症との不思議な関係
果物アレルギーは、特定の花粉症と関連することも分かっています。例えば、 シラカバ(Birke)花粉症では約半数の人に何らかの口腔アレルギーがみられるとも言われており、バラ科のサクランボやりんご、モモ、ナシ、イチゴ、さらにマタタビ科のキウイに対してもアレルギー反応がみられます。ブタクサ(Beifuß)花粉症の人には、メロンやスイカなどウリ科の果物やバナナのアレルギーが生じやすく、カモガヤ花粉症は、オレンジのアレルギーと関係すると言われています(表2)。そのため、口腔アレルギー症状は花粉症の季節に悪化することがあります。
シラカバ花粉症 | マタタビ科 | キウイ |
---|---|---|
バラ科 | モモ、りんご、ナシ、サクランボ 、イチゴ | |
ブタクサ花粉症 | ウリ科 | メロン、スイカ |
バショウ科 | バナナ | |
カモガヤ花粉症 | ミカン科 | オレンジ、レモン |
ゴム製品のアレルギーとの関係
ゴムの成分である天然ゴムの木の樹液(ラテックス)に対するアレルギーがあると、ゴム製品(ゴム手袋やコンドームなど)に触れることで、痒みやじんま疹を生じます。ラテックスアレルギーの約半数に果物アレルギーを合併すると報告されていて、キウイやバナナ、アボガド、栗、マンゴー、パパイヤ、メロン、モモ、パイナップルなどの果物アレルギーは、ラテックスアレルギーとの交差抗原性(後述)があることから「ラテックス・フルーツ症候群(Latex-Frucht Syndom)」とも呼ばれます。
果物アレルギーの原因は?
多くの果物アレルギーは、まず草木の花粉に対する花粉症になった後、その花粉と似た構造のタンパク質(交差抗原性と言います)が含まれる果物を食べることによって生じます。これらは「クラス2食物アレルギー」とも呼ばれます。それに対し、花粉症とは関係なく、食品中のタンパク質に対してできた抗体が原因で起こるアレルギー反応は「クラス1食物アレルギー」と呼ばれ、全身性のアレルギー反応を示す場合があります。その一方で、果物を煮たり、焼いたり、漬けたりするとタンパク質が変化して、同じ果物でも口腔アレルギーが起こらなくなったります。また、漬けたりすることによって新しくできたタンパク質が別なアレルギーの原因となることもあります。
植物科が共通だと起こりやすい?
植物学的に同じ科に属する果物では抗原が似ているため、アレルギーを起こしやすくなります。例えば、サクランボとりんご、モモ、ナシ、イチゴはバラ科に属するため、サクランボで口腔アレルギーを起こす人はりんごなど他のバラ科の果物のアレルギーが同時にみられることも少なくありません。
無農薬果物でアレルギーは減る? 増える?
無農薬栽培のりんごで行った近畿大学の研究(2006年)によると、無農薬栽培によって必ずしもりんごアレルギーが減るわけではなさそうです。むしろ、無農薬栽培のりんごは、感染特異性タンパク質(抗菌作用のあるタンパク質)というアレルギーの原因物質が増えたと報告されています。理由として、無農薬果物では病害虫の攻撃に対抗するために感染特異性タンパク質が多く作られている可能性が考えられています。
果物アレルギーいろいろ
● シラカバ花粉症と関係するもの
キウイアレルギー(Kiwi)
果物アレルギーとして最も多くみられます(神奈川県食物アレルギー実態調査)。キウイはマタタビ科に属しますが、バラ科果物と同様にシラカバ花粉症の人に起こりやすくなっています。同じキウイでも、緑色の果実を持つデリシオサ種の方が、黄色い果実のチネンシス種よりアレルギー成分であるアクチニジンという物質が多く含まれています。
りんごアレルギー(Apfel)
シラカバの花粉症と交差抗原性があります。りんごを生で食べたり、生果汁を飲んだりすることで生じます。りんごジャムや加熱処理済のりんごシュースではアレルギーを生じないこともあります。
モモアレルギー(Pfirsich)
「モモもスモモもモモのうち」と言われるように、同じバラ科に属するモモやスモモでみられます。
サクランボアレルギー(Kirsche)
バラ科の果物であるサクランボを食べて起こるアレルギーです。アメリカンチェリーでもみられます。
● ブタクサ花粉症と関係するもの
メロンアレルギー(Melone)
神奈川県の調査では、2番目に多く報告されたのがメロンアレルギーです。メロン以外にもスイカなどウリ科の果物でアレルギー症状がみられることがあります。
バナナアレルギー(Banane)
バナナを食べたり、生のバナナジュースを飲むことで起こるアレルギーです。
● カモガヤ花粉症と関係するもの
オレンジアレルギー(Orange)
オレンジは、イネ科のカモガヤの花粉症と交差抗原性があります。生のオレンジを食べたりすることで、口腔アレルギー症状が現れます。
果物アレルギーの診断方法は?
特定の果物を食べることにより繰り返される、特徴的な口腔アレルギー症状の経験により診断がなされます。さらに、原因と思われる果物に対する血液中のIgE抗体を測定したり、果汁成分を薄めた試験液を用いた皮膚テストでアレルギー反応を確認する場合もあります。
果物アレルギーの対処法は?
治療は、アレルギー症状を起こす果物を食べないようにすることが基本。症状が軽いからといって食べ続けると、次第にアレルギー症状が強くなることもあるので注意が必要です。皮膚のじんま疹に対しては、抗ヒスタミン薬が、さらに重篤なアナフィラキシーではステロイド製剤が用いられます。