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子どもと大人の風疹・麻疹・水ぼうそう

日本では今、大人の風疹や麻疹が流行っていて、しかも子どもより症状が重いと聞きました。子どもの頃に予防接種をしたかどうか不確かですが、ワクチン接種をした方が良いのでしょうか?

風疹は近年まれにみる最悪の流行

日本の国立感染症研究所の集計によると、今年7月までに報告された風疹(Röteln)はすでに昨年1年間の1.6倍で、この5年で最悪の流行となっています。流行の中心は20~40歳代の男性。この層が全体の半数以上を占めています。麻疹(Masern)も、ここ3年間で20歳以上の患者が1500人と増加傾向にあります。

なぜ大人の風疹が流行しているの?

現在20~40代の日本人男性の中には、風疹のワクチン接種を受けていない人が少なくありません。平成23年度の感染症流行予測調査によると、30~50代の男性のなんと5人に1人、20代の男性でも10人に1人が風疹に対する免疫を持っていませんでした。

子どもの頃、予防ワクチン接種を受けたから大丈夫?

ワクチン接種後、時間とともに徐々に抗体価が減少することがあります。風疹も麻疹も、昔は周囲の人に感染がみられ、それによって自然に免疫力が維持されてきたものの、近年は流行も減り、子どもの頃に1回接種しただけだとウィルスに対する免疫が低くなっている場合があります。実際、風疹ワクチンを1回しか受けなかった20歳以上の女性の20人に1人は、抗体価が低いとも言われています。

風疹(三日はしか)について

風疹ウィルスによる感染症。英語では「ドイツはしか(German measles)」とも呼ばれます。

どうやって感染・潜伏期は?
患者の鼻水に含まれるウィルスに直接接触したり、くしゃみによる飛沫感染で伝染ります。他者への感染力がみられるのは、発疹が出てくる1週間前から発疹が出て約4日間程度。感染者の約70%に症状が出現します(顕性感染)。潜伏期は2~3週間。

発疹の特徴と症状は?
発疹は発熱と同時にみられ、耳の後ろにあるリンパ節が腫れます。軽い痒みを伴なう紅斑が顔から全身に拡がります。紅斑は麻疹のように融合せず、発疹が消えた後の色素沈着もみられません。大人が風疹に罹ると、発熱や発疹の期間が子どもより長く、しばしばひどい関節痛がみられます。1週間以上休まなければならないこともあり、重篤な合併症も希にみられます。

治療までの流れ、合併症の危険性は?
風疹ウィルスに対抗する薬はなく、対症療法が中心となります。また、脳炎、髄膜炎、血小板減少性紫斑病を合併することがあり、妊娠初期では先天性風疹症候群(後述)の原因となります。一度罹ると終生免疫を獲得しますが、ごくまれに再感染したとの報告もされています。

妊婦・妊娠希望の方は要注意!
妊娠早期の妊婦が風疹に罹ると胎児に先天異常をもたらす「先天性風疹症候群(Rötelnembryofetopathie)」の危険が生じます。妊娠する可能性のある女性は、過去に風疹に罹ったかどうか、予防接種を受けたかどうかが不確かな時は、予防ワクチンを接種するようにしましょう。ただし、風疹ワクチンは生ワクチンのため、妊婦は接種できず、ワクチン接種後2カ月間は避妊の必要があります。

麻疹(はしか)について

乳児後半から幼児にかけて好発するウィルス感染症です。特に2歳以下の患者が50%を占め、その95%以上が予防接種未接種の子どもです。春から夏にかけての感染が多く、数年間隔で流行がみられます。

どうやって感染・潜伏期は?
麻疹ウィルスは感染力が強く、咳やくしゃみによる飛沫感染で体の中に入ります。潜伏期は10~12日間。感染者の95%以上で症状がみられます。

症状は?
38℃前後の発熱や咳、鼻水など、風邪のような症状で発症します。他人への感染力はこの症状が出ている時期に最も強くみられます。38℃前後の発熱が2~4日間続き、いったん少し熱が下がった後、口の中に白い斑点がみられ(コプリック斑)ます。そして再び39℃近い高熱が出て、全身に小さな赤い斑状の発疹が出現します。発疹の特徴は、耳の後ろや頬から始まり、次第に体や四肢に拡がります。小さな赤い班は融合拡大して不正型となり網の目状となります。意外なことに、この皮疹の部分にはウィルスは存在しません。大人が麻疹に罹ると、基本的な症状は子どもと同じですが、重症化して1週間程度の入院が必要となることがあります。

治療までの流れ、合併症の危険性は?
麻疹ウィルスを直接やっつける薬はありません。症状を軽くする対症療法が中心となります。また、約30%に合併症がみられます。最近は、細菌の二次感染による中耳炎がもっと多く、時には肺炎や脳炎を併発します。脳炎は麻疹患者の1000人に約1人にみられ、そ の20〜40%に後遺症が残り、約15%の人が死亡します。麻疹に一度罹れば、強い終生免疫を獲得しますが、ごくまれに再感染もみられます。

水ぼうそう(水痘)について

水ぼうそう(Windpocken)は、水痘・帯状疱疹ウィルスの初感染によって起こる病気です。ほとんどが9歳以下の、乳幼児から学童前半期の小児に好発します。水ぼうそうが治った後も、ウィルスが神経節に潜み続け、後年になって帯状疱疹(Herpes Zoster)を引き起こします。

どうやって感染・潜伏期は?
水痘・帯状疱疹ウィルスは極めて伝染性が強く、接触感染や飛沫感染にて感染します。潜伏期は2~3週間です。

発疹と症状は?
発熱や体のだるさとともに、頭皮を含む全身に痒みを伴った小さな紅斑が出現、数日の間に虫さされにも似た小さな水疱(すいほう)からかさぶたへと変化します。次々に新しい発疹ができるため、紅斑・水疱・かさぶたが混在します。7~10日で治ります。最近は初感染の年齢が上昇傾向にあり、大人の水ぼうそうも増えてきています。大人では症状が重症化しやすく、肺炎や脳炎(特に小脳炎)を合併することがあります。

治療は?
痒み止めの外用薬など、対症療法が中心です。重症化を避けるために抗ウィルス薬を服用することもあります。感染してから72時間以内であれば、水痘ワクチンによって60~80%の発症を抑えることができます。ライ症候群という重篤な病態を引き起こすことがまれにあるので、発熱に対してアスピリン製剤を使ってはいけません。一度罹ると、終生免疫を獲得すると言われていますが、水痘・帯状疱疹ウィスルに対する抗体価が低下した状態では、再感染もみられます。

ワクチン接種しても発症?
水痘ワクチンの接種で免疫ができていても、10~20%の人が水痘を発症します。この場合、症状はとても軽く、発疹の数も少ないことがほとんどです。

麻疹・風疹・水ぼうそうの特徴
麻疹 風疹 水ぼうそう
潜伏期 2週間 2〜3週間 2〜3週間
発熱と
発疹
二峰性の発熱。
再発熱時に発疹
発熱と同時に発疹 発熱と同時に発疹
発疹の
特徴
耳の後、頬から体・
四肢へと拡がる。
発疹の融合あり
顔から全身に拡がる。
発疹の融合なし
水疱の形成。
新旧の発疹が混在。
頭皮にも水疱あり
発疹の後 色素沈着あり 色素沈着なし かさぶた化
その他の
特徴
口内のコプリック斑 耳の後のリンパ節 -
大人では 重症化あり 重症化あり 重症化あり

予防接種は1回、それとも2回?

日本でも2006年から風疹と麻疹ワクチンの2回接種法が導入されました。ドイツの場合、1回のワクチン接種での免疫獲得率は、麻疹で95~98%、風疹で約95%、水ぼうそうでは92~97%(1回の予防接種を受けた人でも免疫がついていない可能性がある)で、2回目のワクチン接種による免疫獲得率は、麻疹は100%、風疹はほぼ100%、水ぼうそうは98%以上となります。また、1回しかワクチンを接種していない人の場合、10年以上も経つとウィルスに対する抗体価が下がっていることがあります。麻疹ワクチンを2回受けていない妊婦のご家族の方は、風疹予防と麻疹予防の両方の観点から、麻疹・風疹混合ワクチン(MR)の接種が推奨されています(国立感染症研究所)。

※ドイツでの予防接種については、過去の連載もご覧ください。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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