ジャパンダイジェスト

「新型うつ病」 その正体とは?

質問:最近、日本では「新型うつ病」が話題になっていると聞きました。普通のうつ病とはどう違うのでしょうか? 冬に気分が落ち込むのも、新型うつ病の一種なのでしょうか?

Point

  • 20〜30代の若い世代の「うつ」として注目。
  • 「新型うつ病」という医学用語はない。
  • 「非定型うつ病」とほぼ同じ兆候を示す。
  • 職場では「うつ」状態、仕事を離れると元気になる。
  • 挫折体験に乏しく、プライドが高い人に多い。
  • 治療には、心理療法が有効。

新型うつ病について

● 「新型うつ病」は正式な病名ではありません
「新型うつ病(新型うつ)」は医学用語ではなく、メディアなどが作った言葉です。そのため、厳密な定義があるわけではありません。従来のうつ病の分類で言うと、「非定型うつ病」と似ています。「新型うつ病」が流行している昨今、企業におけるメンタルヘルスケアが課題として浮き彫りになっています。「現代型うつ病」と呼ばれることもあります。

「新型うつ」の特徴

● 「新型うつ」は増加している
実際の患者数は不明ですが、この5年ほどの間に、日本企業では対応に苦慮するほど増加しています。ほぼ同義とされる「非定型うつ病」は、うつ病全体の3割から半数を占めると推定されています。男女比では女性に多く、若い世代のうつ状態の多くを占めていると考えられています。

新型うつ病に特徴的な症状

● 職場で落ち込み、外では元気
20~30代の若い人にみられます。「うつ病(Depression, Melancholie)」は終始気分が落ち込み、何をやっても楽しくないのに対し、「新型うつ」の場合、うつ症状がみられるのは職場でのみ、仕事以外の趣味活動では活発で、病欠中に旅行に出掛けるケースもあります。そのため、仮病や気まぐれと誤解されることも少なくありません。

「新型うつ病」と「うつ病」の比較

● 失敗を他人のせいにする
 「うつ病」の場合は、「悪いのは自分」「自分は駄目だ」と自責の念や罪悪感を抱くのに対し、「新型うつ」は、仕事上の困難を会社や上司のせいと考えます。イライラ感が強くなり、周囲に攻撃的な態度を取ることもあります。

新型うつの特長

● 自分は「うつ」だと自覚する
職場での気分の落ち込みから、「うつ」ではないかと考え、自ら専門医を受診して「うつ」の診断書を会社に提出するなど、自分の症状に自覚的であることも少なくありません。一方で、会社を休んでレクリエーションに参加することには、疑問を抱かないことが多いようです。

● 食欲はあるし、よく眠れる
食欲が低下し、心配事で夜も眠れなくなる通常の「うつ病」に対し、「新型うつ」は食欲もあり、睡眠障害もありません。

● 拒絶過敏症の兆候
職場での嫌な体験がトラウマのように心に残り、例えば自分を叱責した上司の顔を見ただけで気が滅入ったりします。さらに、「パニック症状」「対人恐怖」といった不安症を伴うこともあります(「パニック障害」2012年6月23日発行、924号掲載)

新型うつ病になりやすい個人の資質

● 成績優秀で、挫折経験がない
幼い頃から褒められて育ち、学業も優秀、周囲の評判も良いが、他人から強い批判や叱責を受けた経験が少なく、挫折をあまり知らない人が多いようです。幼少時に母親から十分な愛情を得られなかったことと、心の病を発症することとの関連を示唆する意見もあります。

● プライドが高い
「自分は特別だ」「他人とは違う」という高いプライドと自信があります。そのため、職場の上司からの注意や叱責を、自分のプライドや社会的地位が傷付けられたと悲観的に捉えてしまいます。

● 他人からの評価を常に気にする
他人が自分をどう思っているかを絶えず気にして、人から批判されることを極度に嫌うような「対人緊張(他人に対する強い緊張感)」の状態にあると考えられています。

● 規則や期日もストレスと感じる
組織の規則や仕事の期日についても、ストレスと受け取る傾向があります。

新型うつへの対応と注意点

● 単にさぼっているのではない
 「新型うつ」は、未熟さが原因とか、さぼっているだけと思われがちですが、専門的には「非定型うつ病」と呼ばれる病気です。職場にいる時間、本人は本当に苦しい状態に置かれているのだという理解が大切です。プライドが傷付けられたことが嫌悪刺激になったとすれば、少し褒めてあげることも効果的です。

「新型うつ」に対する先入観と誤解

● 専門医を訪れる
言葉の問題もあり、ドイツのメンタルヘルス専門医(Psychiater/-in)への受診は、ハードルの高いものがあります。ドイツ語に自信がない場合は、近くの日本語のできる医師に相談してみてはいかがでしょうか。必要に応じて、ドイツ国内の専門医や日本語で相談できる臨床心理士(Klinischer Psychologe)、もしくは一時帰国の際に受診できる、日本国内の医療機関を紹介してもらえるでしょう。

● 心理療法が有効
治療はまず、抱えている問題とその背景を時間を掛けて聞くことから始まります。臨床心理士は心の病のカウンセリングと助言の専門家です。「新型うつ」の治療には、心理療法(Psychotherapie)が有効と考えられています。「うつ病」には良い治療薬がありますが、「新型うつ」には1回服薬して治るという特効薬があるわけではありません。誘因となった嫌悪刺激を消去するには時間が掛かります。本人、医師、臨床心理士、さらに職場の上司が連携しながら治療を行うことが大切です。

「新型うつ」の対応と治療

季節うつ(冬季うつ)とは異なります

日照時間が短くなり、外は寒くて暗く、家に閉じこもりがちなドイツの冬は、どうしても気分が落ち込みがちです。そういった季節的要因からくる「冬期うつ」の場合、甘いものを好み、過眠もみられます。「新型うつ」とは別の病態です。(「冬季うつ」2008年11月21日発行741号掲載)

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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