ドイツの進路を大きく左右する連邦議会選挙まで、あと約1カ月。世論調査機関が公表する支持率調査の結果は、メディアの報道に応じて敏感に変化する。どの党が首位に立ち、どのような形の連立政権を築くかは、予断を許さない。
2日、ドイツ西部で起きた洪水によるゴミの山の前で話すラシェット州首相
緑の党の失速
今回の選挙戦で最も目を引くのは、華々しいスタートを切った緑の党が勢いを失ったことと、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の失地回復だ。緑の党の支持率は、4月19日にベアボック共同党首を首相候補に選んで以来上昇した。5月14日にインフラテスト・ディマップが発表した支持率調査によると、緑の党の支持率(25%)はCDU・CSU(24%)を追い抜いている。CDU・CSUへの支持率は今年1月以来、ワクチン接種の遅れや一部の党員によるマスク斡旋・収賄事件などのために低下傾向にあった。
だが首相候補は一挙手一投足をメディアによって監視され、どんなに小さな問題点でも容赦なく暴き立てられる。5月中旬以降、メディアはベアボック氏が3万7000ユーロの特別収入を連邦議会事務局に申告するのを忘れていたことや、党のウェブサイトなどに公開していた経歴に複数の誤りがあったことを報じた。
ベアボック氏にとって最も大きな打撃となったのは、同氏が6月17日に出版した著書の中で、他人の文章を無断で書き写していたことだ。問題を悪化させたのは、この報道に対するべアボック氏と党の態度だった。同氏は当初「私はすでに知られている事実については、公表されている内容を使っただけだ。専門書ではないので、あえて脚注を付けなかった」と、あたかも無断引用を正当化するかのように発言。同氏は7月23日まで、過ちを認めなかった。
ベアボック氏の人気が急落
べアボック氏が見せた頑なな態度と、緑の党の危機対応の稚拙さは、同党への信用性を傷つけた。緑の党の支持率は、5月14日の世論調査では25%だったが、ベアボック氏の「オウンゴール」のために、7月23日公表の調査では19%にダウン。逆にCDU・CSUの支持率は、同時期に24%から29%に回復した。
ドイツ第2テレビ(ZDF)が5月21日に発表したアンケート結果では、「仮に首相を選ぶことができるならば、べアボック氏を選ぶ」と答えた回答者の比率は43%だったが、その比率は7月16日には、半分以下の20%に下がっている。緑の党の内部でも、「州政府の閣僚はおろか、地方自治体の首長の経験もないベアボック氏を首相候補に選んだのは誤りだった」という意見が聞かれるほどだ。
水害で気候変動が重要な争点に
ただし、CDU・CSUの圧勝が決まったわけではない。7月にドイツ西部のラインラント=プファルツ(RP)州やノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州などを襲った水害や、ギリシャ・トルコ・ロシアなどで続く森林火災は、市民の間で地球温暖化や気候変動への危機意識を強めた。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、8月9日に公表した第6次報告書で、「地球温暖化が人間によって引き起こされていることは、疑いようがない」と断定し、「二酸化炭素(CO2)削減の努力を大幅に強めない限り、産業革命前と比べた地球の平均気温の上昇幅は、2030年頃に1.5度を超える」という悲観的な分析を打ち出した。これらの出来事に影響され、一部の有権者が緑の党に票を投じる可能性もある。
ラシェット氏もミスを犯した。7月17日に洪水の被災地を訪れた時、シュタインマイヤー大統領が記者団の前で犠牲者に哀悼の意を表わしている最中に、ラシェット氏は背後で笑っていた。ラシェット氏が笑う映像はメディアに大きく取り上げられ、「不謹慎」という批判が集中した。
連立交渉は難航か
8月5日の調査結果では、CDU・CSUの支持率は30%にも達していない。仮に同党が連邦議会選挙で首位に立っても、単独で議席の過半数を取ることは不可能だ。「誰を首相に望むか?」というアンケートでは、社会民主党(SPD)のショルツ氏が首位にあり、ラシェット氏、ベアボック氏を上回っているが、政党支持率ではSPDは第3位である。
CDU・CSUと緑の党だけでは議席の過半数を確保できない場合、自由民主党(FDP)やSPDが加わって連立政権を樹立する可能性もある。だが緑の党とCDU・CSUやFDPのマニフェストの間には、CO2削減や所得格差の是正のための対策において、大きな隔たりがある。2017年の選挙同様に連立交渉は難航し、政権誕生には相当時間がかかるに違いない。
政党支持率調査前月の調査に比べた変化(8月5日公表)
参考:Infratest dimap「Sonntagsfrage Bundestagswahl」