5月は株主総会が開かれる季節。多くのドイツ企業が2011年度の業績を発表しているが、中でも製造業界はめざましい記録を達成した。会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)ドイツ支店の調べによると、DAX(ドイツ株式指数)市場に株式を公開している大手企業30社の業務利益(運用益などを含まない本業による収益)の総額は、昨年初めて1000億ユーロ(10兆5000億円、1ユーロ=105円換算)の大台を突破した。
業務利益が最も多かった上位5社はすべて製造業であり、しかもその内3社が自動車メーカーである。このことは、2011年にドイツの物づくり企業がいかに目覚ましい業績を挙げたかを示している。売上高の総額も2010年に比べて9%、研究開発支出は10%、従業員数も1.4%増えている。DAX企業は中国や南米の新興国で売り上げを大きく伸ばしており、2011年は多くの企業にとって、創業以来最高の業績を挙げた年となった。
特に元気が良いのが自動車業界。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、2011年の乗用車の輸出台数は前年比で6.6%増えて約452万台となった。2010年の23.7%という驚異的な伸び率には及ばないが、EU以外の地域で輸出台数が伸びた。
アジアへの輸出台数は21.9%も増加。その内中国向けは22.5%、台湾向けは44.9%、インド向けは60.8%も増えている。VDAのヴィスマン会長は、「西欧で新しく認可された乗用車の2台に1台はドイツ製。中国でドイツ車のマーケット・ シェアは20%になった。“メイド・イン・ジャーマニー”は、多くの国で高品質の代名詞となっている」と自負する。
中でも羽振りが良いのが、ドイツ最大の自動車メーカー・フォルクスワーゲン(VW)。同社は、2011年に当期利益を前年から2倍に増やして、158億ユーロ(1兆6590億円)を計上。これは、ドイツ株式指数(DAX)市場に株式を公開している企業が計上した利益の額としては過去最高である。
収益を増やした多くのメーカーの取締役たちのポケットには、業績に連動するボーナスが転がり込む。VW社のマルティン・ヴィンターコルン社長は、昨年1660万ユーロ(17億4300万円)の報酬を手にした。これは、2011年の企業トップの年収の中で最高額である。さらにアウディ社は、すべての従業員に8251ユーロ(86万6400円)の特別ボーナスを払った。VW社でも、全員に7500ユーロの賞与が配られた。
自動車だけでなく機械製品の輸出も拡大。連邦統計局によると、2011年のドイツの輸出額は前年比で11.4%増えて、過去最高の1兆600億ユーロ(111兆3000億円)に達した。貿易黒字も2%増加して1581億ユーロ(16兆6005億円)に拡大している。
欧州統計局によると、2011年のドイツの国内総生産(GDP)は前年に比べて3%増加し、ユーロ圏の平均成長率(1.5%)を大幅に上回った。ドイツは、フランス、英国、スペイン、イタリアなどほかの西欧諸国に大きく水を開けている。この国の経済が、ユーロ危機にもかかわらず大きく伸びた背景には、ドイツの単位労働費用の過去20年間の伸び率が、他国ほど大きくなかったということがある。2003年に首相だったシュレーダー氏が「AGENDA 2010」の名の下に実施した社会保障費用の削減、企業の国際競争力の改善への努力は今、実を結んだ。ドイツ人が痛みを伴う改革に耐えてきたことが、現在の成果をもたらしたのである。
1 Juni 2012 Nr. 921