ユーロ危機は、ギリシャの債務問題が表面化してから今年12月で丸3年を迎えるが、トンネルの出口は依然として見えず、むしろ事態は深刻化する一方だ。こうした中、ドイツでは「ギリシャが歳出の削減や経済改革を約束通りに実行しないのならば、ユーロ圏から脱退するべきだ」という声が急速に高まっている。
ギリシャは今年2月に欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から1300億ユーロ(12兆3500億円・1ユーロ=95円換算)の緊急融資を受ける条件として、経済改革や歳出削減を行うと約束した。同国は、2013年、14年に合計115億ユーロ(1兆925億ユーロ)を節約しなくてはならない。
だがギリシャ政府は、「不況が深刻なので、この改革の実行期限を2年間延ばしてほしい」とほかの国々に要求している。
もちろんメルケル政権の公式見解は、「ギリシャはユーロ圏にとどまるべきだ」というものだ。しかし本音の部分では、ドイツの政治家や官僚たちはすでに堪忍袋の緒を切らせている。この国ではもはや、ギリシャのユーロ圏脱退はタブーではなくなってきている。
例えば、フィリップ・レスラー連邦経済相は、「ギリシャはEUとIMFに対して約束した改革の内、3分の2を履行していない」と批判。そして「今年2月にギリシャとの間で合意したばかりの条件を緩和したり、EUが同国に新しい救済パッケージを提供したりすることは、絶対に受け入れられない」とギリシャ政府の要求を拒否した上で、「ギリシャのユーロ圏脱退は、もはや怖くない」と語った。彼は、ギリシャが経済改革についての約束を守らない場合には、これ以上の融資を行なうべきではないと主張している。
レスラー氏はメルケル政権の副首相でもある。要職に就く人物がこのような発言を公式に行うということは、事態がいかに切迫しているかを示している。
さらに、一部の政治家はドイツがEUの緊急融資基金である欧州金融安定メカニズム(ESM)に加わることを阻止しようとしている。ドイツ連邦議会は今年6月末に、ドイツがESMに参加することを承認したが、キリスト教社会同盟(CSU)のペーター・ガウヴァイラー議員らは「ESMへの参加は憲法違反」として連邦憲法裁判所に提訴した。原告は、「南欧諸国の債務をほかの国に肩代わりさせるESMは、加盟国の債務を他国が引き受けることを禁止するリスボン条約に違反している。ドイツはESM参加により、他国への支援を強制されるが、これは連邦議会の予算決定権が剥奪されることを意味する」と主張している。憲法裁は9月12日に判決を下す予定だが、万が一、違憲と判断した場合、ESM全体が崩壊の危険にさらされる。
こうした中で注目されるのが、欧州委員会、IMF、欧州中央銀行(ECB)が構成する監視団・通称「トロイカ」が9月に発表する報告書だ。EUは、次の融資額312億ユーロ(2兆9640億円)を ギリシャ政府に送金するかどうかを決定する際に、この報告書の内容を参考にする。もしもトロイカが「ギリシャの改革努力は不十分」という結論に達し、EUやIMFが融資を見合わせた場合、ギリシャは破たんし、ユーロ圏からの離脱を余儀なくされる。はたしてヨーロッパ人たちは、ギリシャを見捨てるのか。それとも、再び救いの手を差し伸べて、「底の抜けたバケツ」に資金を注ぎ込み続けるのか。この9月には、ユーロ危機が再び台風の目となるだろう。
31 August 2012 Nr. 934