ジャパンダイジェスト

エルマウでのG7首脳会談と脱石炭への決意

雄大なアルプス山脈を見渡す、ドイツ南部バイエルン州のエルマウ。ここで6月7日から2日間にわたり、独、日、米などの主要7カ国が首脳会議(G7)を開いた。

•地球温暖化防止が重点

この首脳会議は、「環境サミット」として後世に記憶されるだろう。各国の首脳たちは、ウクライナ危機や難民問題だけではなく、環境保護とエネルギー問題にも重点を置いたからである。特に焦点となったのが、地球温暖化の防止である。各国首脳が「二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないグローバル経済の建設を目指す」と宣言したことは、各国のエネルギー戦略にも大きな影響を及ぼすだろう。

G7首脳は、共同声明の冒頭で「我々は地球の未来をどう形作るかについて、責任を負っている」とした上で、「今年12月に国連がパリで開く気候変動枠組条約・第21回締約国会議(COP21)が、気候変動に歯止めをかける上で決定的な役割を果たす」と断定。主要国はパリの会議で、CO2など温室効果ガスの本格的な削減のための、新たな議定書の合意に向けて努力することを確認した。その上でG7諸国は、「2050年までに世界中の温室効果ガス排出量を、2010年比で40~70%削減する」という目標へ向けて、各国が経済の低炭素化へ向けた戦略を作り、実行することで合意した。さらに主要国は、COP21で合意される温室効果ガス削減目標を実現するために、2020年までに合わせて1000億ドルの資金を投じることも明らかにした。主要国は原則として、21世紀末までに化石燃料の使用をやめることを目指している。

•最大の被害者は発展途上国

地球温暖化は、南北格差の問題でもある。G7諸国は、過去数世紀にわたって経済成長を行う中で、大量の温室効果ガスを放出してきた。だが、気候変動によるハリケーンやサイクロン、暴風低気圧の増加によって、最も深刻な被害を受けるのは主要国ではなく、東南アジアやカリブ海の発展途上国である。彼らはG7諸国と異なり、経済発展の果実を享受していないだけではなく、温室効果ガス増加のつけを払わせられている。しかもこれらの国々では、自然災害から人命や財産を守るための公的な保障制度や民間保険が、主要国に比べると発達していない。

このため、G7諸国は共同声明の中で、気象関連の自然災害に対する公的・民間の保険カバーに守られている発展途上国の市民の数を、2020年までに現在より4億人増やすための支援措置を取ることを明らかにした。同時に、自然災害に対する警報システムの設置についても援助を行う。

またG7は、老朽化して燃焼効率が悪い石炭火力発電所などが、温室効果ガス削減努力に逆行していることを問題視。CO2を多く発生させる化石燃料への補助金の禁止や、温室効果ガスの放出を減らすテクノロジーに対する輸出の融資条件を緩和するなどの措置を提案している。

これらの提案には、今回の首脳会議の議長国であるドイツの筆跡が色濃く感じられる。同国は、世界で最も環境保護に熱心な国の1つであり、2050年に再生可能エネルギーの発電比率を80%に引き上げることを目標にしている。メルケル政権は福島の原発事故をきっかけに、2022年末までに原子力発電所の全廃を決めたが、現在は「脱石炭・脱褐炭」へ向けて舵を切りつつある。

•中国・インドを巻き込む必要

だが、温室効果ガスの削減を重要な目標に掲げたG7首脳会議に、世界最大のCO2排出国である中国の姿がないのは空しい印象を与える。米国のNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」によると、2011年の世界のCO2排出量のうち、中国の比率は27%で世界最大。やはり会議に参加しないインドとロシアを合わせると、その比率は37%に達する。

中国やインドは、今後も着実に経済成長を遂げていく。国内総生産(GDP)の拡大と同時に、エネルギー需要も増大し、CO2の排出量も増えていくだろう。中国などの新興国は、「G7諸国は、これまで経済成長のために大量のCO2を大気中に排出して、地球温暖化を進行させた。我々新興国にも、経済成長のためにCO2を排出する権利がある。先進国が我々にCO2排出量の削減を求めるのは不公平だ」と主張している。したがってG7諸国は、温室効果ガスの本格的な削減を目指すのならば、最大のCO2排出国である中国やインドをエルマウでの会議に招待するべきであった。

また、米国の今後の動きも気になる。G7諸国のCO2排出量の比率を比べると、米国の比率が17%と最大だ。だが、米国はシェールガスやシェールオイルを重要なエネルギー源とみなしており、21世紀には、米国が石油や天然ガスの輸出国となるのだ。シェールガス革命を行っている米国が、脱化石燃料の動きに同調するかどうかは未知数だ。その他のG7諸国のCO2排出量の比率は、日本4%、ドイツ2%、フランス1%など、いずれも1桁である。これらの国々がCO2排出量を大幅に削減しても、地球規模で見た場合、効果は限られている。本当に脱化石燃料を実行しなくてはならないのは、中国や米国なのだ。

気候変動に歯止めをかけるという志は高く評価するが、実効性という点では一抹の不安感を与えたエルマウ・サミット。それだけに、12月にパリで開かれる気候会議の結果が大いに注目される。

3 Juli 2015 Nr.1005

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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